バーティカルSaaSの原体験 -Contrea編-
■ バーティカルSaaS起業家のみが見える世界
「放射線技師の仕事も、起業してやっていることも同じだと思っています」
国内で唯一、インフォームドコンセント領域でのSaaSプロダクトを提供するContreaの取り組む課題は「テクノロジーで患者さんと医療者をつなげる」こと。
医療現場でも渋谷のコワーキングスペースでも本質に変わりはない、と代表の川端さんは言います。
4年半の放射線技師経験から創業に至った経緯にはどんなストーリーがあるのでしょうか。
「企業データが使えるノート」では、"バーティカルSaaSの原体験"をインタビューし、起業家の唯一無二の経験から、取り組んでいる当事者にしか見えない業界の課題、そして、つくっていきたい未来を探っていきます。
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↑ 異色の放射線技師という経歴を持つ川端さん。すごいさわやか!
川端 一広 / Contrea株式会社 代表取締役
首都大学東京(現:東京都立大)放射線学科卒業後、がん研究会有明病院にて診療放射線技師として4年半の勤務。AI医療機器開発スタートアップAillis株式会社に転職後、2020年にContrea株式会社を創業。
放射線技師は「レントゲンを撮るだけの人」ではない
早船 : まずは、川端さんのバックグラウンドである放射線技師とはそもそもどんなことをしてる人なのでしょうか?
川端さん : 患者さんが病院で診断を受ける流れの中で、問診を経て、「検査」によって患者さんの状態を明らかにするというプロセスがあります。
放射線技師はレントゲンやMRI、CTといったテクノロジーを使って、肉眼では見えない身体の内部を可視化し、医師の診療材料となる画像を提供する役割を担っています。いわば、「医療者」と「患者」をつなげる役割です。
早船 : 私たちも健康診断などを受けるときに関わりがありますね。
川端さん : はい、なかなか放射線技師と直接話す機会はないと思いますが、医療プロセスの中では、治療前の重要な役割を担っています。
早船 : 川端さんが放射線技師をやっている中で感じた課題はどの様なものでしょうか。
川端さん : 「 医療者が患者さんとのコミュニケーションに必要な時間が避けていない 」という課題です。
例えば、がん治療などの高度な医療を受ける際には、医師が患者・ご家族に対して病状や治療の選択肢について説明をし、どのような治療を選ぶか、説明にしっかりと時間をかける必要があります。
早船 : いわゆるインフォームドコンセントですね。
川端さん : はい、医師の働き方改革が叫ばれているように、医師はとても多忙です。
その中で、がんなどの疾患では説明に1時間ほどかけている先生も少なくなく、長時間化が課題となっています。
しかしながら、患者さんにとっては説明内容の専門性の高さ・煩雑さから、一度聞いただけで全てを理解できる方はほとんどいらっしゃいません。
↑ 医師が患者に渡す説明用紙のイメージ。難しい、、
加えて、説明の大半が病気や治療方法などが占め、患者さんの気持ちや価値観に寄り添った説明や個別のリスクの説明に時間が避けないという現状もあります。
↑ 医療者、患者ともに抱えるそれぞれの課題
MediOSは医療提供者と患者のありかたを変える
早船 : そのような課題に対してどのようなアプローチで解決を図っているのでしょうか?
川端さん:わたしたちは、MediOSという日本で唯一インフォームドコンセントに特化した、医療者と患者さんのSaaS型コミュニケーションシステムを提供しています。
医師が患者さんに対して治療方針を話し合っていく際に、病状ごとに対しての「共通の説明」があります。臓器の動きと言った前提的な知識や、がん治療であれば、「どういった癌か」「どのような治療があるか」など誰に対しても同じように説明する部分です。
MediOSでは、各分野の権威ある医師に監修をお願いしながら、この共通説明部分の動画を作成し、患者さんに医師との面談前に閲覧できるシステムをつくっています。
それによって、医師が患者さんごとに必要な個別の内容に沿った話ができるなど、本来あるべきコミュニケーションが取れる状況を生み出しています。
2024年には 医師の働き方改革として、勤務医の時間外労働時間を「原則、年間960時間までとする」とすることが決まりつつある中で、医療者が生産性をあげることは避けては通れません。MediOSはそんな医療者の時間を効率的に使うためのツールとも言えます。
専門分野の権威ある医師に届いた思い
早船 : 医療に関する情報を取り扱うのは正確性などの観点で高い情報の質が求められると思いますが、どのようにコンテンツをつくっているのでしょうか?
川端さん : この事業に賛同いただける医師の方に動画の監修をしていただくなどして、信頼性のある情報を届けています。
早船 : もともと放射線技師として勤務の際につながりがあった方ですか?
川端さん : いえ、面識はなかったのですが、「この分野であればこの方にお願いしたい」という各領域におけるオールスターのような医師の方にお受けいただくことができました。
当初、当然断られると思いつつ、7名の方にいきなりお手紙をお送りして、直接お願いに伺いました。
そうしたら何と、うち6名の方に監修いただけることになって、、
しかも、まだスタートアップなので心苦しくも薄謝でお願いをしたところ、「お金はいらない」とお申し出いただくこともありましたが、それはできないので、本当に気持ちばかりでお受けいただいている状況です。
↑ 協力が得られることが分かり、安堵の瞬間を回想する川端さん。やった!
早船 : お金ではなく、純粋な想いを汲み取っていただいたのですね。
川端さん : 患者さんにしっかりと向き合いたい気持ちは、誰よりも医師の方が持っている想いだからこそ、と思います。話を伺っていると、より個別の説明部分に時間をかけたい気持ちもあるが、なかなか難しいというジレンマを抱えている方も多い現状をみました。
日比谷公園には求めている高齢者はいなかった
早船 :医療領域のプロダクトはセキュリティ要件が厳しく、オンプレミスでの環境構築や、エンドユーザーである患者さんに高齢者が多いなど、いろいろと難度が高い印象があります。
プロダクトをつくるなかでどのような困難がありましたか?
川端さん : 実際に使っていただく方が理解できるシステムであることが最重要であると考え、患者さんが使う画面設計には早期から開発や検証に取り組んできました。
具体的には、動画を閲覧するスマートフォン・タブレットでの操作がどの程度スムーズに行えるかを確かめるため、公園でご高齢の方に画面を触っていただくなどしてテストしました。
公園でタブレットをもって「話を聞かせてください」と言うと怪しまれることも多くて、、
早船 : 確かにこのご時世、警戒されやすいですね。
川端さん : 巣鴨や、、あと、日比谷公園でもヒアリングしたのですが、ちょっと上手くいかなくて、、
早船 : やはり、断られることが多かった?
川端さん : いえ、日比谷公園にいる高齢者の方って、スマホを当然のように持っている方が多くて、既にめちゃくちゃ使いこなしているんです。ですので、Mediosの画面もスイスイ操作できて、課題が明らかにならない、、
早船 : 都心ゆえの特殊さですね、、(笑)
↑ 想定外にITリテラシーの高い高齢者に出会ってしまった、、
川端さん : ですので、高齢者を想定ユーザーとするサービス場合、日比谷公園でのヒアリングはおすすめしません(笑)
現場で体験した究極のコミュニケーション齟齬
早船 : いろいろと困難が多い中で川端さんがこの事業に賭けられるのはなぜでしょうか?
川端さん : 放射線技師の経験を経る中で、「テクノロジーで医療者と患者さんをつなげたい」という想いです。私が当時患者さんと接していた時にした、忘れられない体験があります。
早船 : はい。
川端:ある咽頭がんの70歳くらいの患者さんで、手術のために声帯を摘出する必要がある方がいました。
術後、その方とお話した際に、既に声を失われていたため、筆談だったのですが、私に「声を失うと分かっていたら、この手術を受けなかった」と書いて渡された方がいました。
早船 : なんと、、
川端さん : もちろん、このような重要事項は必ず術前に医師から伝えられているはずですし、同意書も得ますので、何らかのコミュニケーション齟齬があったのだと思います。
ただ、がんの診断でご本人も動揺されている中で、話としては伝えたとしても、納得のいく十分なコミュニケーションが取れない、ということが起こり得るのだなと衝撃を受けました。医学的な最適解と、患者さんの人生における最適解は違うことがあることを知り、コミュニケーションの重要性を思い知ることになりました。
非常に稀なケースではありますが、「あまり理解ができなくても、治療を受ける」といったことは、多かれ少なかれ起きています。
その要因の一つには、医療者の業務負荷が高いことも大きく関係していると考えています。
早船 : 時間的な制約がある中で、非常にシビアで不可逆的な決定を行うコミュニケーションをとらなければいけない。難しい課題ですね。
川端さん : このような状況の一方で、海外ではSDM(Shared Decision Making )という概念が医療現場で取り入れられるようになっています。
これは事前に同意を得るインフォームドコンセントに対し、患者さんの価値観を取り入れ、医療者と患者さんが協力しながら治療方針を決定するというコンセプトです。がんなどの不確実性の高い治療では必要とされ始めている意思決定の方法です。
MediOSなどのシステムを通じて、医療提供側と患者さんの間に存在する情報ギャップを埋め、医療者と患者さんが向き合う時間を長く取れるようにすることで、よりSDMのような考えが日本でも浸透する世界をつくっていきたいと考えています。
正解がない中で一緒に正解を見つける仲間を探す
早船 : いまのContreaの課題は何でしょうか?
川端さん : 人手が足りていないことです。この手探りで進めている事業を一緒につくっていく仲間を見つけていきたいと思っています。
インフォームドコンセントに特化したシステムは誰も挑戦をしたことがなく、医療現場でのSaaS提供も多くの事例がありません。
このような、「未知な状況に対し、正解をつくり出す」という想いを持てる方と一緒に働きたいと思っています。
早船 : 真にスタートアップをつくっていけるような仲間集めですね。事業の将来性はどう見ていますか?
川端さん : 日本における医療システム市場規模は約4,700億円、海外を含めると3兆円の規模があります。
一方で、日本市場の90%以上がオンプレミスでSaaSの未開拓領域になるので、非常に魅力的な市場となっています。また、MediOSのようなコミュニケーションシステムやエンゲージメントソリューションは海外でも注目を集め、資金調達も順調に進んでいます。
シードラウンドのVCに出資をいただいていますが、潜在的な市場の大きさも評価いただけた一因だと考えています。
レガシー産業でもある医療業界に対して、SaaSであることに加え、今までにないサービスという大きな挑戦になりますが、現在利用していただいている病院の医師から説明時間が短くなり、患者さんの理解度も高まっていると反響を得ています。
「ロマンとソロバン」を両立させながら事業を伸ばしていきたいと思います。
早船 : 医療現場における課題はわずかながら認識はしていたものの、自分もいつか医療に関する説明を受ける当事者になることを考えると、とても意義のあるサービスだと思いました。
全ての患者さんが納得の医療を受けられるよう、私も応援しています!
長時間に渡りお話ありがとうございました!
↑ インタビュー予定時間を超えてもどんどん語っていただける川端さんの眼差しはアツい
Contreaからのお知らせ
Contreaでは、一緒にMediOSをつくっていく仲間を募集しています。
特に営業メンバー、エンジニア、UIデザイナーを重点採用的に採用を行っています。
少しでも興味を持たれた際は上記Wantedlyよりお気軽にお問い合わせください。
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最後に
今回この記事を書くにあたっては、こちらの川端さんが書いたnoteを拝見し、筆者(早船)がコンタクトを取らせていただきました。
「良い文章を書ける人には強い体験がある」ということが分かるような分かるnoteですが、お会いすると、川端さんの実直さと事業に対する想いが伝わってきました。
私がバーティカルSaaSに注目をしているのは、ビジネスとしての発展可能性はもとより、当事者として「どうしても解決したい業界に根付いた深い課題」に取り組む姿勢に共感を覚えるからです。
医療業界でのIT分野の挑戦は決して難易度は低いものではありませんが、将来、自分や自分の家族も向き合うであろう、「医療者と患者の最適なコミュニケーションのあり方」を創ろうとする挑戦に対し、心から応援したいと思っています。
以上です。
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