私の好きな韓国料理は”おうちご飯(집밥)”
▪️小さいけど確実な幸せ、食べること
何年か前、韓国で“小確幸(소확행)“という略語が流行った。
意味は“小さいけど確実な幸せ(소소하지만확실한행복)“
村上春樹のエッセイから来ているらしい。
「日常に隠れてる自分だけの些細な幸せ」を見つけて、自分の回りの小さなことに満足したり幸せになるのもいいのではないかってこと。
私にとって日常に隠れてる소확행 は、“美味しいものを食べること“。
自分の食べたいものを食べるために、家でもご飯をよく作る。
食べることが大好きな私にとって、こんなに確実に幸せを感じる方法はない。
でも、その幸せが感じられなくなったことが1度ある。
▪️ストレスの連続
それは私が1年間韓国にワーキングホリデーに行った時の出来事。
みんなはどうしてるのかわからないけど、私は現地に行ってから直接見て決めるつもりだったので、住む家を決めずに入国した。
すぐ決まると思ってた。
韓国語も話せたので、日本人向けの業者は使わずに不動産屋に行って家を探した。
土地勘はある程度あれど、一年住む家を探すことはかなりのストレスだった。
日本でもしたことない家の契約だから、かなり慎重に選んだ。
優柔不断な性格なため、見てまわってもなかなかここ!ってすぐに決めることができず、決めようと思ったらもう別の人が決まったりと、タイミングが合わなかった。
完全に私の考えが甘かった。
安いホテルに滞在していたけど、お金は減っていくばかりな状況は、どんどん焦りにつながっていく。
「部屋見つかるのかな」「仕事を見つけれなければ家賃は払っていけるのか」「友達にどこまで頼っていいのかな」どんどんマイナス思考の沼にはまっていく日々。
「家がない」「家のご飯が食べれない」ということが、自分をこんなにも不安定にさせることを初めて知った。
そんな時、日本の実家の地域で大きな地震が起きたことをニュースで知った。
結果的に家族全員無事だったけど家には被害があり、さらに余震が続くかもって情報もある状況。
その時点で韓国を出国してしまうとワーホリの資格を失う状況だったから、帰国することもできず。
当時の私の状況にはこの地震は精神面を崩す致命傷だった。
マイナスのことが連続して起こり、精神的ストレスから食欲がなくなった。
▪️人生で初めて食欲喪失
食べることが大好きな私にとって、人生で初めての出来事だった。
お腹は鳴っているのに、全く食べたいと思わなかった。
それでも、何も食べないとフラフラするから、その度に倒れないように無理やりご飯を口に入れた。
美味しいはずのご飯が生きるために食べてる感じがして、本当に少ししか口にできなかったし、美味しいと感じることはなかった。
ズボンのウエストがゆるくなってきたのを感じたころ、仲良しの韓国人のオンニ(お姉さん)がソルロンタンを食べに連れて行ってくれた。
ソルロンタンとは、白いスープとご飯が一緒に出てくる韓国料理。
オンニに心配かけたくなくて、スープは半分頑張って食べた。
白ご飯は食べるつもりなかったけど、オンニに言われてやっと一口食べた。
それ以上食べようとしても、スプーンが動かなかった。
食欲というものが完全になくなった状態だった。
▪️おうちごはん(집밥)
周りの協力もあって、家をどうにか決めることができた。
でも、数日経たないと入居できないとのことで、それまでオンニの実家にお世話になることになった。
その当時、何日もご飯をまともに食べれてなかった私は痩せ細って、全てのエネルギーを失った状態だった。
オンニの家は、居間を中心にいくつか部屋があって韓国ドラマで見てるみたいな家だった。
オンニの家族には初めて会うから、敬語しっかり使えるかなって心配だったけど、初めて会うオンニのお母さんは暖かく迎えてくれた。
お母さんの方言混じりの声は、安心感を与えてくれた。
オンニのお母さんは挨拶を終えると、「なんでこんな痩せたのー」ってスープとご飯、たくさんのあったかいおかずを大きな食卓テーブルいっぱいに準備してくれた。
それを見ると、あれだけ食欲なくて1日一食もまともに食べれなかったのに、急に食欲湧いてきた。
透明で温かいスープは、ストレスで弱った胃に染み渡った。
ほかほか炊きたての五穀米入りもちもちご飯も、美味しくて2杯もおかわりした。
お肉と野菜などが入ったたくさんのおかず、全部が美味しかった。
久しぶりにご飯を食べてるって感じがして、泣きそうだった。
ご飯の匂いって、こんなにも安心感をあたえてくれるんだな。
お母さんは私の話を聞きながら、もっと食べなってずっと私のご飯を準備してくれた。
その次の日もその後も、オンニの家に滞在した間、お母さんはたくさんおかずを作ってくれた。
オンニは朝早くに会社に行くから、朝は私はお母さんと二人でご飯を食べた。
お母さんと他愛もない話とかしながら、毎朝ご飯食べるのが楽しみだった。
オンニは家では朝ご飯をほとんど食べないから、私が喜んで食べるのが嬉しいらしく、お母さんはたくさんたくさん盛ってくれた。
オンニも半休出して一緒に過ごしてくれたり、一緒にカレー作ったり、たくさん気分転換させてくれた。
私がまるまると健康的になってきた頃、一人暮らしの部屋に入居できることになった。その時もおかずをたくさん持たせてくれた。
お母さんの気持ちのこもったご飯は、慣れないワーホリ生活のスタートを支えてくれた。感謝してもしきれない。
韓国に行けない今、恋しくなるのはおしゃれな料理より、お母さんの作ってくれた名前が分からないおうちご飯。
恋しくて、YouTubeで検索して韓国料理を家で作ってみる。
でも、やっぱりお母さんの作ってくれたご飯にはまだまだ敵わない。