『マニアック』 キャリー・フクナガ監督が不条理を華麗に映像化
by 輪津 直美
The New York Timesで、キャリー・フクナガ監督の特集をしているのを読んで、このドラマを知った。恥ずかしながら、私はそれまでフクナガ監督のことを全く知らなかった。だから、彼が007シリーズの最新作で米国人として初めてメガホンを取ることも、役者顔負けのイケメンであることも、かつてプロのスノーボーダーだったことも、お父さんが日系アメリカ人であることもこの記事をきっかけに知った。
私はフクナガ監督と『マニアック』に非常に興味を持ち、全10話をほぼ一気に見た。そして、日本人の血を引く彼が予想以上に優秀な監督であったことがわかって、嬉しく思ったのである。フクナガ監督は、アクション、バイオレンス、ファンタジー、コメディー、SF、コスチューム・プレイ等々、「夢」にかこつけて様々なテーマを、華麗かつ緻密に演出している。非常にクレバーな人だ。
私はこれまで、こんなにも「夢」を的確に映像化している例を見たことがない。実際は精神病患者の妄想という設定なのかもしれないが、その世界観は私がいつも見ている「夢」そのものであった。
私達が夢を見ている最中は、起きていることがどんなに不条理でも、どんなにバカバカしくても、真剣に生きている。夢の世界に没頭しすぎて、目覚めてもすぐに現実に戻れないときすらある。
そうかと思えば、「これは夢なんだな」とわかっているときもある。「どうせ夢なんだから」と、夢の中で白けていたりもする。
夢の中では理屈が通っているつもりが、後で客観的に考えてみると全く意味不明とか、夢と認識しながら、かといって目覚める気もない、などといった夢特有の感覚を、脚本のパトリック・サマーヴィルは巧妙に具現化している。
また、主演のエマ・ストーンが本当に素晴らしくて惹きつけられる。彼女はどんな格好をしていても惚れ惚れするほどキマっているし、アップになれば、顔の筋肉の動きの一つ一つがリアルで、どうやったらこんなわけのわからない話に没入できるのだろうと感心する。彼女は、このSF・ファンタジー・コメディ・不条理ドラマにリアリティをもたせた功労者だ。
そしてフクナガ監督である。
全10話の中で私達は、コーエン?タランティーノ?それともスコセーシ?、と思うようなバイオレンスやら、ロード・オブ・ザ・リングと見紛うファンタジーやら、1990年前後のSF映画やら、80年代のアクションコメディやら、シャーロック・ホームズ時代?のコスチューム・プレイなどなど、いろんなシチュエーションの映像を見ることになるのだが、監督はそれぞれを全く違うテイストで演出することに成功している。そして、そのほとんどが不条理な世界なのに、視聴者を惹きつけ続ける説得力があるのだ。キャリー・フクナガは、間違いなくポスト・クリストファー・ノーランのポジションにいて、将来は大監督になる可能性を秘めている。
最後に、「夢」以外の現実部分は、ブレードランナー時代のレトロなコンピューターと変な日本感満載で、このbizarreテイストもクセになる面白さであることを付け加えておく。
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