『ブレイキング・バッド』 アルバカーキの青い空
by キミシマフミタカ
エピソードの最初の部分をディーザーという。多くのテレビドラマでは、短いディーザーの後にタイトルが出る。ディーザーとはいわばメインディッシュの前の前菜のようなものだが、ブレイキング・バッドのディーザーはとても暗示的で、それが大きな魅力だった。
一見、ストーリーとは何の関係もないシーンだったりするのだが、エピソードを最後まで見て真意がわかる、というパターンなのだ。そのシーンこそ、プロットの大転換や人物の運命が大きく狂うポイントだったと、後で気づく。でも伏線とは違い、暗喩なのだ。
たとえばプールに目玉が浮かんでいる。人間の目玉ではない、ぬいぐるみの目玉が取れて浮遊している。なぜプールに目玉が? そのディーザーは、何話かのエピソードに連続して登場するが、不吉な予感はするものの、しばらく何のことかわからない。だがやがて、それが大きな事件、エピソードを左右する象徴的な事件の顛末だと知ることになる。
ブレイキング・バッドを見るたびに、ディーザーが楽しみになる。ディーザーのおかげで、視聴者はそのエピソードが完璧にコントロールされていることがわかり、安心する。すぐれた物語には、すぐれたディーザーがつきものなのだ、たぶん。そして自分の日常生活にも、そんなディーザーがあったらいいなと思い始める。あるいは、本当はあるのだけれど、気づいていないだけなのかもしれない、と考えたりもする。
ブレイキング・バッドは、言わずと知れた名作ドラマだ。多くの批評家の称賛を受けており、主演のブライアン・クランストンは、ゴールデングローブ賞を始め、数々の賞を受けている。だから、ここであらためて物語を称賛する必要もないだろう。
印象に残るのは、舞台となったニューメキシコ州アルバカーキの風景である。撮影も実際にそこで行われたという。いつも空が青く突き抜けている。グラデーションがかかった深い青。白いブリーフ一丁で佇むブライアン・クランストンの背後にあるのは、いつもアルバカーキの青い空で、最終話を見終えてから、それが物語全体のデューザーだったのだと知る。すなわち、麻薬王となる彼が開発した“ブルーメス”の象徴だったのだ。