NHKは、ピーキー・ブラインダーズを絶対に作ることができない
文責:輪津 直美
1920年代、英国バーミンガムを舞台にしたギャングの話をBBCが豪華キャスト、絢爛美術かつスタイリッシュな音楽と映像で制作している。日本でいえば、NHKが「清水次郎長」を大河ドラマで撮ったというところか?大河ドラマ「清水次郎長」。実に心躍る題材だ。次郎長役は山田孝之あたりでひとつお願いしたい。
しかし現実的には、国に予算を握られているNHKが、反社会集団であるヤクザの大河ドラマを作ることは考えにくい。仮に実現できたとしても、「ヤクザ顔負けに受信料取り立ててるやつがヤクザドラマ作ってるよw 得意分野だなww」などと、善良な視聴者からの嘲笑、いや、苦情や、ネットでの炎上などが大いに懸念される。
一方BBCも、政府と結ぶ「協定書」により運営されていて、決してやりたい放題できるわけではない。しかし、どんな抵抗があってもモンティパイソンを放送し続けていた伝統は、今も脈々と受け継がれているのだ。このギャングドラマも問題なく作られた。そしてドラマは大ヒットし、第3シリーズまで放送されている。
余談であるが、一昨年、英国の保守党議員が「BBCは放送終了時に国歌の "God save the Queen" を流すべきだ」と主張した際に、BBCはそれならば、と放送終了後にセックス・ピストルズの同名曲を流した。
このように組織文化がずいぶん違うBBCとNHKだが、受信料収入で成り立っていることは共通している。事業収入はNHK約7,000億円、BBC約5,000億円なので、両国の人口比から考えると、BBCの方が製作費に若干余裕があるかもしれない。
問題なのは、この予算規模の差に対し、ドラマ制作力の差が大きすぎることだ。役者、脚本、演出、美術、照明、音楽、どれをとってもNHKはBBCに大きく水をあけられている。
数年前に「平清盛」という大河ドラマがあった。リアリティを追求した絵作りをしていたようだが、これに対して以下の様な批判があった。
「平清盛、映像が汚い」兵庫知事が大河ドラマに苦情 2012.1.11 朝日新聞
”兵庫県の井戸敏三知事は10日の定例会見で、8日から始まったNHK大河ドラマ「平清盛」について「画面(映像)が汚い。鮮やかさがなく、チャンネルを回す気にならない」と酷評し、NHKに改善を申し入れることを明らかにした”
地元を守るための政治的介入である。地元以外の視聴者はアウトオブ眼中の発言である。
しかし今回、その問題は横に置いておこう。真の問題点はそこではないのだ。
つまりNHKが、おそらく普段はドラマを観ていない「ド素人」の知事ですら、納得させることができていないということが問題なのだ。
知事にしてみれば、大河ドラマを三顧の礼で招き入れ、ロケ場所やエキストラ、弁当の手配等で至れり尽くせりしてきた。ところがふたを開けてみたら観光客が敬遠してしまうような汚い映像になっている。彼は落胆・憤慨し、思わず定例会見で改善を求めてしまう事態に至ったのである。
ピーキー・ブラインダーズにも貧民街のシーンは出てくるが、「汚らしい」撮り方はしていない。陰影のある抑えた色調が、リアリティを出しつつも美しい。これっだったら兵庫県知事も納得の出来だったのに。
NHKが、受信料の徴収に関してヤクザ顔負けに熱心なのは、周知の事実であるが、そうして増えた受信料をぜひドラマの質向上にも投じて欲しいものだ。
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