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思い上がりの片思い(前編)

ここ数年、「なんで恋愛しないの?」という質問が増えた。ちゃんと統計を取っているわけではないが、きっとわたしへ最も多く寄せられている質問ではないかと体感では思う。いつもどこでも省エネを考えてしまう性分なので、「結局のところ、質問ってどれも似たり寄ったりだし、FAQ集でも作っておこうかな」という発想すら浮かぶ。

が、恋愛系の質問は、FAQでは解決しえないと思っている。相手のある話だし、質問された人との関係性によって、どこまで開示するかが変わってくるからだ。

それでも、昨日ふと思い出してしまった片思いがあり、個人情報を隠しながらも筆を走らせてみようと思う。

(タイムスリップ)

彼は、同期入社だった。入社後数日間は「たくさんいる同期の中のひとり」というワンオブゼム的な存在で、お互い名字で呼び合うよそよそしい関係だった。それが、入社1週間後から3ヶ月間行われる新人研修の班が同じになったことをきっかけに、愛称で呼び合うようになった。

そうして研修が始まった週の初めての金曜日、彼も含めて総勢10名以上で居酒屋に行った。金曜日ならではの解放感と同期との居心地の良さに気が大きくなったわたしは、ビール、ハイボール、日本酒を浴びるほど飲んでしまい、約2時間後に潰れてしまった。

ラストオーダーを終えた閉店間近の居酒屋で、「ごめん。調子に乗って飲みすぎた。吐きそう。。。」と、机に突っ伏すわたしに、彼は背中をさすりながら「1週間疲れたよね。そりゃお酒も回るわ。。」と優しく声をかけてくれた。そしてそのまま、わたしは彼が持ってきてくれたゴミ袋に思い切り吐いた。人前で吐いたのは大学生以来で、シラフになった後は恥ずかしくて赤面した。

週明けの朝、介抱してくれた彼を含めて居酒屋の席にいた同期に「金曜日はごめんね。もうあんな飲み方はしないように気をつけるね」と、オフィスでGODIVAのクッキーを配って回った。ひたすら恐縮しているわたしに、彼は「いいよ、そんなに気を使わなくて。また飲みに行こうよ」と、やさしく声をかけてくれた。もっと恐縮した。

その週の半ば、研修を終えてオフィスを出ると、「もう帰るの?ごはん食べに行こうよ」と、彼が追いかけてきた。断る理由がなかったので、オフィス付近の中華料理店に二人で立ち寄った。

(うわ、よく考えたら二人きりだ。。なにを話せばいいんだろう。。)と、一杯目のビールが来るのを待ちながら所在なくメニュー表に目をやっていると、彼が「おれの話してもいい?」と、自分のオンオフ両面を話してくれた。カウンター席にいたこともあり、彼の熱気を隣で存分に受け取りながら、恵まれた環境や素質に胡座をかくことなく前を向いて人生を切り拓く彼の生き様を感心して聴いていた。

その後、わたしの話をした。彼は「いつも一生懸命なところ、ほんと尊敬してる。すごいよね」と褒めてくれた。これまでの人生であまり褒められたことがないこともあり、「そうかな…ありがとう…」と返すのが精一杯だった。帰り道、彼が「今日は楽しかった!また行こう!今度は銀座で寿司がいいな」と無邪気に笑い返してくれた。

彼と別れて電車に乗ってからも、気持ちの高揚感がおさまらなかった。この頃はその高揚感こそが恋愛感情とも気づかず、多幸感に包まれながら眠りについた。

そうして数日後、また違うお店でごはんを食べながら、「今度寿司食べよう。口約束じゃなくて、ちゃんと日にちを決めよう。」という話になり、日取りを決めた。気がつけば毎日彼と話をしていること、ほぼ毎日のように仕事終わりにごはんを食べて一緒に帰っていること、こうして次の予定を決めていること、次の予定が決まってテンションが上がっていることから、「これは恋だろうな、わたしは彼が好きなんだろうな」と、初めて自覚した。ひさしぶりの感情に戸惑ったが、これまでの経験則から恋愛感情だと結論づいた。ただ、職場恋愛に前向きではなかったので、「付き合うかどうかはさておき、今を楽しみたい」とだけ思うようにした。

そうして2週間後の金曜日、どうにかこうにか研修を早く終わらせて、二人で銀座に向かった。GINZA SIXの最上階で寿司を堪能しようとしていたのだが、ステーキやフレンチにも目移りしてしまい、二人で悩んでしまった。
悩んでしまい苦笑いしているわたしに、「一番行きたいお店はどこ?せーので言い合おうよ」と彼が提案してくれた。「うーん、ひとつに決められない…どうしよ…」と困った顔を見せると、「じゃ、3つ言おう!で、被ったお店に行こう!」と言うので、せーので指をさした。3店舗中2店舗被っていて、「気が合うね!」と、顔を見合わせて笑った。なんだかデートみたいで、それだけで楽しかった。結局は、「もともと寿司食べるつもりだったし」という理由で寿司屋に決めて、暖簾をくぐった。

しかし、二人で悩み過ぎたこともあり、ラストオーダーの時間をとうに過ぎており、寿司を堪能することはかなわなかった。途方に暮れながらGINZA SIXを後にして別のお店を選び、二人で高級魚のフルコースに舌鼓を打った。個室だったこともあり、「元彼ってどんな人?初めて付き合ったのは何歳の頃?」と、突っ込んだ恋愛話も訊かれた。すると彼は、「なんか最初の頃は『近寄り難い大和撫子』って印象だったけど、ちゃんと話すと面白いよね〜。次から次へと面白いネタが出てきて楽しいわ〜。」と、終始にこやかだった。

しかし、個室でフルコースをゆっくり味わっていたら、気がつけば夜中12時を回っていた。わたしも彼も終電をなくしてしまっていたのだ。ダメ元でJRの駅に行ってみたものの、シャッターが閉まっていた。

「電車、なくなっちゃったね…」と落胆しているわたしとは対照的に、彼は「そうだね、これからどうしよっか?」と、比較的冷静だった。

(眠くなったので今日はここまで。近日中に後編を書きます。)

【今日の一曲】
Friends or Lovers/PSY•S

友達以上恋人未満って言葉を耳にすると、この曲を思い浮かべます。チャカさん歌上手くて憧れる。

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ゆめきあおい
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