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恋はまるで”ひかり”のように(前編)

予告していた話を書こうと思い立ったので、こんな夜中だけど筆を執る。

前回の「思い上がりの片思い」から数週間も経たないうちに起こった、恋愛の傷を恋愛で癒やそうとしたエピソードだ。

(タイムスリップ)

彼とは、仕事終わりに数名でカラオケに行ったり焼肉に行ったりする関係性だった。淡々とした話し方と、時々とぼけたことを言う性格と、まるでマスコットのような風貌とのギャップが個人的にツボで、時々彼をおちょくるのが好きだった。

また、話のテンポや音楽の趣味が合うので、LINEのラリーが毎日のように続いていた。しかし、転勤から数日が過ぎた頃、彼からいつもと様相の異なるLINEがきた。

「ねえ、近々遊びにこない?」
「配属先のマネージャーが怖くてストレスで、パーっと飲んで発散したくなってて」

その後は、そのマネージャーが独裁者で、1on1で詰められる毎日に疲れ切っているという切々とした叫びが続いていた。わたしも配属先でピリピリとした毎日を過ごしていたので、彼の誘いを二つ返事で快諾した。

そして、彼と日取りを調整していたのだが、彼は土日休みで、わたしは日月休みと休日が1日ズレていることが発覚したので、日曜日に飲もうと提案した。ところが、彼からは「日曜に酒飲んだら、翌日ちゃんと仕事できなくてマネージャーから怒鳴られるからやだ。土曜日に飲みたい。仕事が終わったら来てよ。あと、念のため日曜日の予定も空けといて。」との強い要望があり、彼に押し切られる形で、土曜日の仕事終わりに向かうことを決めた。

当日は仕事を夕方には切り上げて、職場から15分の距離にある自宅に急いで戻り、支度をして新幹線の駅に向かった。そして、チケットを買ってひかりに飛び乗り、彼が住む隣県を目指した。新幹線の中では、エルレのスターフィッシュよろしく「あと2駅がばかに遠い」と感じる高揚感があった。


約1時間後、彼が待つ街に着いた。彼は「この街には来たことないでしょ?お店予約してるから楽しみにしてて!」と、いつもよりも心なしか声が弾んでいた。

歩くこと10分、ちょっとリッチな個室居酒屋に着いた。彼がすすめるご当地グルメを肴に、ビールとハイボールと日本酒を淡々と飲み進めた。潰れないように新幹線の中でヘパリーゼをキメていたこともあり、ハイテンションながらもハッキリとした意識の中で、彼の愚痴をひたすら聞いていた。次第に彼は気持ちがよくなってきたのか、わたしの髪の毛をひたすら触っていた。

「髪の毛サラサラだねー!しかもいいにおいするー!香水?それともトリートメント?」
「なんだろうね」
「(わたしの首元を嗅いで)わかったー!香水だ!」
「正解!」
「どこのブランドか当てる!当てたらカラオケ行こう!また歌聴きたい!前に歌ってた椎名林檎の幸福論、もう一回歌って!」

そう言って、彼はシャネルから始まり主要ブランドの名前を列挙していたが、残念ながらどれもハズレだった。

「もうわかんない。答え教えて。」
「MARC JACOBSのデイジー」
「甘すぎなくていいね、それすごく好き」
「ありがと。でも、今日のカラオケはなしね!」

そう言うと、彼は残念そうに口を尖らせていた。(いつも冷静なのに、そんな表情も見せるんだな…)と、妙に新鮮な気持ちになっていたところに、ラストオーダーを告げる店員がやって来た。彼の新たな一面を探りたくなり、日本酒を複数オーダーして、二人で飲んだ。彼はどんどん表情豊かになっていった。

日本酒を飲み終えると、彼は、
「ねぇ、すげー現実的な話するけど、新幹線で帰りたい?それとも、まだここにいたい?」
「せっかくだし、もう少しこの街を楽しみたいかなー、二軒目に行ってご当地グルメを突きながら朝まで飲みたい」
「あ、ごめん。この街、朝までやってる店、チェーン店ばっかなんだよね。カラオケか、おれの家に来るか、どうする?」
「究極の選択だね。歩きながら決めない?」

そうして彼にお会計で奢ってもらい、お礼を言いながら靴を履いて立ち上がった。

あれ、視界がほわほわする…。
しかも、ちょっとフラフラする…。
割と酔ってるな…、これは歌は無理だ…。

ということで、「ねぇ、おうちにお邪魔してもいい…?」と無意識に発してしまい、彼の家に泊まることとなった。

電車とタクシーを乗り継ぐこと約40分、彼の家に着いた。わたしの住む街では考えられないほどに広々とした間取りで、「やっぱり地価が違うと、同じ所得でも借りられる家も違うんだな〜」と、うらやましく思いながら、ぼーっと立っていた。

すると彼は、「汗かいたでしょ。シャワー浴びてていいよ。酒買いにコンビニ行ってくるから」と、すぐに外へ出てしまった。仕方がないのでシャワーを浴びて、持ってきていたジェラートピケのルームウェアを着た。ドライヤーで髪の毛を乾かしていると、彼が帰ってきて、ストロングゼロやらスミノフアイスやらがテーブルに並べられていった。

「先飲んでて。おれもシャワー浴びるから」
「やだ。一緒に飲みたいから待つ」
「わかった。じゃテレビでも見て待ってて」

ソファに座ってテレビをつけると、ワールドカップの試合中継をしていた。日本代表の試合ではなかったけれど、なんとなく眺めていた。しばらくすると、お風呂上がりの彼が隣に座り、二度目の乾杯をした。程なくして、買ってきたお酒がなくなったので、彼がコーラハイボールをフラつきながら作ってくれた。

「このハイボール濃いめだね。もしや潰そうとしてる?」と眉を顰めるわたしに、「そんな悪意はない。おれはそんなに悪いやつじゃない」と彼は否定しつつも、ショートパンツのわたしの膝にパンチしてきた。わたしも彼の太ももにお返しした。次の瞬間、彼がテレビを消して、わたしの肩を抱いて顔を近づけてきた。(やっぱこうなるよね、、まっ、いいか、、)と思いながらキスをした。

彼はお酒と一緒に、ちゃっかりゴムも買っていて、結局は最後までしてしまった。後始末をしながら、彼は「家に来たの、確信犯でしょ?」と聞いてきたので、「は?最初に2日空けろって言ったのはそっちじゃん。そのときからこうなるって思ってはいたけど」と言い返してしまった。すると彼は、「そうだったな、ごめん」と笑いながら腕枕をしてくれたので、そのまま二人で眠りについた。誰かのそばで安心して寝るのはひさしぶりだった。

朝9時頃、どちらともなく目が覚めた。「おはよう」と言い合って、くちびるを重ねた。(なんだこれは。彼氏彼女か。)と面食らいながら、二人でキッチンに立った。小さめのフライパンにバターを溶かし、みじん切りのハムを入れたオムレツを作ると、「火加減が最高。毎日食べたい。」と、彼が褒めてくれた。うれしかった。朝ごはんを食べ終わって歯磨きした後、昨夜の続きをもう一回した。

お昼はレンタカーで海沿いの街をドライブして、海鮮丼を食べた。新鮮な刺身と温かい酢飯のバランスが最高に絶品だった。その後もドライブをして、二人で海を眺めた。さざなみの音をバックに、とりとめもないことをたくさん話した。

(小さな女の子が遊んでいる姿がかわいくて、思わずパチリしてしまった一枚。)

空が赤くなり始めた頃、レンタカーで駅まで送ってくれた。彼は、「次はおれがそっちに行くわ。家に行きたいから、はやく引越しの片付け終わらせて待っててね」と、冗談ぽく笑って手を振りながら見送ってくれた。

こうして、1.5日間のデートが終わった。帰りの新幹線の中で、彼が好きなゆずを聴きながら、わたしは余韻に浸っていた。

(次回に続く)

【今日の一曲】
恋はいつも幻のように/ホフディラン

この曲すごく好きです。今回のタイトルは、わたしなりのオマージュです。

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