ロッシ現る
私は高校3年生になった。
周りは、受験やら、引退間近の部活やら、彼氏だの彼女だの、何かに夢中だった。
私は、まだ見ぬ怪獣と相見える日に備えて、精神統一に必死であった。
いよいよロッシがやってくるのだ。
心の準備はできる限りした。走って逃げたら追いかけられるので、ポーカーフェイスで堂々とするんだ。イメトレは完璧だ。私はもう、ミニチュアダックスフンドに追いかけられて半べそになったあの頃とは違う。身も心も成長している!!
家の中はすっかり犬仕様。
サークル、クレート、おもちゃ、トイレ、給水器全部揃っている。両親がエッサホイサと用意した。
リビングにあったローテーブルとソファは、スペース確保のため隅へ追いやられた。
もはや私たちヒトにとってのリビングではない。ロッシのためのリビングだ。
ブリーダーさんのところへロッシを迎えに行った両親が帰ってきた。
「ロッシきたよ〜」と、父が私を呼びにきてくれた。
よし、いざ参らん。怖くなんかないさ。相手は産まれたばかりの赤ん坊だ。
私は、意を決して玄関のドアを開けた。
目の前には、バスケットにちょこんとお座りして不思議そうに辺りをキョロキョロしている子犬の姿。
一瞬で気が抜けた。なんだ、この生物は。胸がきゅうっとする。ああ、今すぐ抱きしめたい!この子は私が守る!
今日までの半年間で築き上げてきた鉄壁の精神は、秒でペロ〜ンと溶かされてしまった。
ロッシは、リビングの中央に降ろされた。両親は荷物を片付けるためバタバタと動いている。早速2人きりだ。ロッシは数十秒ぽけ〜っとした後、突然部屋中を猛ダッシュし始めた。
正解の対処法が分からずワナワナしてしまう。ひとしきり走ったら、今度は座っている私の膝の上に飛び込んできた。天真爛漫、純真無垢とはこのこと。こんなに愛らしい生物初めてだ。どう頑張っても怖いなんて感情にはならない。やはり、この子は私にとって守るべき存在なのだ。
両親も片付けを済ませ、リビングに戻ってきた。もうみんな、ロッシに付きっきりだ。おしっこする瞬間も「ち〜っち、ワンツー、ちっちワンツー」と掛け声を欠かさず見守る。うんちのときは「うんち、ワンツー、うんちワンツー」だ。ごはんも完食まで見届け、おすわりしてるコロッコロなロッシを代わる代わるにナデナデする。
ロッシは移動や新しい環境で疲れたのか、コテンと寝てしまった。
私もそろそろ自分のお部屋に行こう。でも、この寝顔をずっと見ていたいなあ。こんなにかわいいなんて。
明日からのロッシとの毎日はどんなに楽しいだろうか。