そうだ。獣医になろう。
ロッシはおっとりマイペースだ。
おまけにとっても甘えん坊。
母のあとをヨチヨチとついて歩く。ピアノの脚をガジガジしてる。あー、漆黒のピアノがー。あー。かわいい。
なんてかわいいの。何をしていても愛おしい。相変わらず私の意識は100%ロッシへ向いている。
周りの子たちより丸い体、荒れた肌、モテない自分、明確な目標がない自分。そんな悩みはロッシが来た日からどこかへ吹っ飛んだ。
唯一、気を揉むことがあるとしたら、ロッシが普段の様子と違うときだ。
あれ?今日はごはん残すの?
あれ?なんだかうんちの形変じゃない?
キャン!!!…聞いたことのない鳴き声。どうしたの?歩き方もどこかおかしい気が…
いきものだもの、食欲がない日もあれば、うんちが軟らかい日もある。
いきものだもの、ドジをしてあちこち痛くしてしまうこともある。
犬と人が言語で通じ合えたらいいのに。
そしたら「お腹が痛いの。」とか「きもち悪いの。」とか「さっきあんよ捻っちゃったかも。」とか、すぐ分かるのに。
きみにはずっとずっと健康でいてほしいんだよロッシ。私の弟。私の赤ちゃん。私のおとうとあかちゃん!
ロッシを想う気持ちは両親も一緒。異変を感じたらすぐ動物病院へ連れて行った。
そこで処置してもらって、ロッシがいつもの調子に戻ってくれたときの安堵感ったらない。
言葉では伝えてくれないから、こちらが異変を感じ取るしかないし、その異変がどういうことなのかも分からないから、とても不安になる。
どの家族もそうだと思った。私たちに愛と笑顔と幸せを全身で伝えてくれるどうぶつが具合悪そうにしてたら、何とかしてあげたくなる。
多くの家庭にどうぶつが一員としているのなら、そんな不安に襲われる人もそれはそれは多いことだろう。
どうぶつと暮らす人たちには、どうぶつのためにもいつも笑顔でいてほしいと当時なんとなく思った。
健やかなどうぶつの姿は、人の暮らしを明るくしてくれるんだ。人の暮らしを支えているんだ。
どうぶつたちをケアして、どうぶつはもちろんのこと、そこの家族が健やかに過ごすお手伝いをできたらなんて素敵だろう。
そんなことできるのかな。
そんな仕事あるのかな。
……。
………。
そうだ。獣医になろう。
待て待て待て。
京都に行くノリで獣医になれる学力が私にあるのか?
いや、ない。即答で、ない。
うーん。どうしよう。
学力が足りないので偏差値の低い方へ志望校を変えるということなら両親も納得するだろうけども。その逆ですから…。
とりあえず、話してみよう。
少し改まった感じで、
「どうぶつとその家族を支える仕事をしたいというか…ほら、ペットフードとか」とか何とかモゴモゴと両親へ言ってみた。
すると、
「そうか、獣医になりたいってことだな?良いじゃないか〜がんばれがんばれ!」
なんだかあっさり完結した。
成績のことなどをもっと詰められると思ったのに。
ロッシは私の進むべき道をスッと指し示してくれた。
ロッシ、きみが安心して過ごせるように私がんばるよ。