ライドシェアを解禁すべき理由
アメリカではタクシーはライドシェアに押されて絶滅危惧種だ。
今年の1月に出張でダラスに行って、空港に着いたらタクシー乗り場がないことに驚いた。すべてライドシェアの乗り場なのだ。アメリカ人の同僚に聞くと、ライドシェアのおかげで国内出張でレンタカーを借りる頻度も激減したと言う。空港でレンタカーを借りるには、ターミナルから無料バスに乗り、5~10分離れたレンタカーのロットに行き、手続きをしてクルマを借りなければならない。返す時はあらかじめ余裕を持ってクルマを返し、ターミナルへ向かう。往復で1時間くらいはロスタイムがある。また、レンタカーを借りていると夜レストランに行ったら運転者はお酒が飲めない。これらの問題をライドシェアは解決してくれる。
さらに、アメリカでなぜライドシェアがタクシーをほぼ全滅させたかには、日本にはない二つの大きな理由があることは言っておかなければならない。
①アメリカのタクシー運転手は、地域にもよるけれど社会の底辺にいる人たちが多い。教養も礼儀もないし、下手すると入国したての移民で英語もろくに話せないこともある。常に騙されたり犯罪に巻き込まれるのじゃないかという不安がある。クレジットカードを使えないこともないがスキミングが不安だから現金で払うことが多い。
②タクシーの車両の状態がひどいことが多い。シートが破れていたり、車体が凹んでいたり、嫌な臭いがしたり、サスペンションがヘタっていて乗り心地が最悪なのは普通。カーナビもない。
それに対してライドシェアのドライバーは中流階級でまともな会話が成立する。クルマは大衆車よりは上のクラスが普通で清潔で乗り心地がいい。人数が多ければワゴンタイプも選べる。そして決済は完全にキャッシュレスだ。
つまりライドシェアは、タクシーに対する根強い不安と不満を解消してくれたのだ。これで料金に大差なかったらライドシェアを選ぶに決まってる。
実はライドシェアがアメリカで最初に始まった時、あんな治安の悪い国で、どこの馬の骨かわからない人のクルマに乗って大丈夫かという懸念があったけれど、それはほぼ杞憂に終わった。ドライバーの犯罪歴の調査や、GPSトラッキング、そして乗客によるレーティングシステムが犯罪を抑止している。1回は悪事をはたらいたとしても繰り返すことは難しい。最近ではむしろライドシェアのドライバーに対する強盗などの犯罪の方が問題になっているくらいだ。だから日本で乗客の安全性云々言うのはナンセンスだと思う。
日本のタクシーはアメリカのようにひどくはないから、ライドシェアを解禁しても即アメリカのように普及はしないだろう。しかし、東京でも最近加速度的に流しのタクシーが捕まえにくくなっていると実感する。近所のタクシー会社を覗くと、平日昼間だと言うのに、350万円もするジャパンタクシーが10台も配車されずに駐車されていた。明らかに運転手不足だ。
つまり、タクシー業界全体の供給力が落ちている上に、タクシーの最大の問題は、固定した供給力しかないから、電車が止まった時とか、悪天候や大型イベントや多くの観光客があった時のピークには全く対応できないことだ。中国人の団体旅行が解禁されて、今まさにその問題が起きている。観光客の問題だけではない。観光客にタクシーが占領されたら、ビジネスマンが使えないということを意味するからだ。こういう時こそライドシェアの出番だ。稼ぎたい人は供給が不足しているところに自分の車を出すという経済原理が自然に働く。
地方では、タクシーの運転手をやるよりもライドシェアをやった方が収入が増えるかもしれない。運転手が勤務時間や担当エリアに縛られず、最も客が拾える時間や場所を自由に決めることができるからだ。消費者側だけでなく、運転手側にも選択の自由を与えるべきだ。元運転手だったら道をよく知っているからリピーターも獲得できてより稼げるかもしれない。しかもライドシェアを解禁したら人だけでなくモノも運ぶことができて、2024年問題の配達人の人手不足も解消できる。
ライドシェアこそ「社会や生活の形を変える」デジタル・トランスフォーメーションの好例なのに、これを推進しようとしない手はない。
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