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「2023年7月の珈琲 Congo:渡り廊下に立つ」

「歩きながら、食べるな!」
どこからか、声がした。
この声は、1年の時の担任T先生に違いない。

Congo:渡り廊下に立つ
エメラルドグリーンの校舎
二棟を結ぶ渡り廊下に立つ
白い手すりに手をかけて
身を乗りだせば
山から吹いてきた風とともに
すべては走馬灯のようにやってくる
少しも色褪せないきらきらとした酸味

昼休みはまだ先だ。
それなのに、授業中もお腹はぐうぐうと鳴っていて、止まる気配はない。
これはいかんと、休み時間に、友達を誘って、まだ生徒のいない食堂へ向かった。

流行は、クリームの詰まった長いフランスパン。
どの味にしようかとひとしきり悩んでいたら、教室に戻る時間がかなり迫っていた。

食堂のおばちゃんからおつりを受け取り、慌てて、食堂を出る。
教室まで戻っていては、パンを食べる暇はない。
そう思い、パン袋の口を破り、友達とフランスパンを頬張りながら、中庭を早歩きで歩いていたときだった。

中庭にT先生の声が響いた。

「歩きながら、食べるな!」

一瞬にして、笑みが消え、ギョッとした顔のわたしたちは声の方向をうかがった。

エメラルドグリーン色の2棟の校舎を結ぶ渡り廊下。
ガラスで覆われた2階の渡り廊下の窓にT先生が笑っているのが見えた。

T先生がいるあの渡り廊下。
あの上。
3階の渡り廊下が好きだ。

2階の渡り廊下はガラスに覆われていて、陽が差し込むと、それはとてもきれいなのだが、わたしは3階の渡り廊下が好きなのだ。

3階の渡り廊下は白い手すりがあるだけで、ほかにはなんの覆いもない。
立ち入り禁止の屋上を除けば、校舎の中で空に一番近い自由な空間だ。

放課後、運動場は運動部に占拠されるおかげで、渡り廊下にいる人は少ない。
少ないというより、ほぼ誰もいない。

それを見計らって、3階の渡り廊下で、体育祭で披露するダンスを練習した。

山の連なりが見えるくらい都会から少し離れた学校には、いつも、山からの風が吹いていた。

ダンスの練習で熱を持った体を風にさらそうと、白い手すりに手をかけ、身を乗り出す。

ここに通うのも、あと数ヶ月。
ちょっとしんみりとしたこころに、山からの風とともに、色濃い学校生活が走馬灯のようにやってきた。

暑い夏のわりに、こころに湧いてきた思い出は、エメラルドグリーンの校舎と渡り廊下と風というとても爽やかできらきらしたものだった。
この色褪せない思い出を珈琲にしたい。

そう思い、7月の珈琲「Congo:渡り廊下に立つ」が生まれた。

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