「9月の名前のない珈琲 China:小悪魔な誘惑」
誘惑されているのかもしれない。
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なかなかクセのある子だな。
9月の名前のない珈琲に選んだChinaの生豆の第一印象はこんな感じだった。
その香りも面構えも、驚くほどにクセがあって、今までに出会ったことのないタイプ。
手を焼きそうだ…と思った。
今回のChinaは、ダブルファーメンテーション(嫌気性発酵処理2回)という精選処理を経たコーヒー豆。
以前、Brazilのアナエロビックという精選処理を取り入れたコーヒー豆をお届けしたことがある。
アナエロビックは嫌気性発酵処理が1回だった。
「7月の名前のない珈琲 ん〜、色っぽい…」
それに対し、今回は嫌気性発酵処理が2回。
色っぽさに輪がかかり、手を焼くタイプに変貌してしまったということなのだろうか。
生豆の入った包みを開封して、即座に漂う甘ったるい香りは、熟れる期間はとうに過ぎ、熟しきっていると主張していた。
その豆面も白、黄、青緑といった今まで目にしたことのある色とはかけ離れた赤の混じる茶だった。
焙煎は、爆発的ではなく平均的な加熱とし、ダンパー操作でチャフを丁寧に剥がしながら煎りあげる。
豆面を見て、そう決めた。
だって、よそ見をしたら、怒って、そっぽを向いてしまいそうだから。
その感覚は、生豆を焙煎機に投入して、熱を加えている間に、何度も何度も押し寄せてきた。
生豆から水が抜けるときまで重い甘酸っぱさが漂う。
生豆に色がつき始めると、ねっとりと甘いみたらし団子のタレのような甘さが焙煎室に立ち込める。
そして、釜から出てきた焙煎豆は、サウナで汗をかき、少しさっぱりしたと言わんばかりの甘酸っぱさを放っていた。
とはいえ、元々、たんまりとしたクセがあるから、やっぱり、独特な雰囲気に変わりはない。
「目を離さないで。」
そんなことを言われている気がした。
これは、俗にいう小悪魔なのかもしれない。
焙煎するたびに、焙煎豆の缶を開けるたびに、「そうだそうだ、君はそうだった。」と思わせる。
そして、また今日も、9月の名前のない珈琲を淹れて、「そうだそうだ、君はそうだった。」と思うわたしに、9月の名前のない珈琲は、「わかってくれるのはあなただけ。」と、珈琲カップの中から小悪魔な笑みを浮かべて、誘ってくるのだ。