「2023年10月の名前のない珈琲 El Salvador:海と川の交わるところ」
それは、山寄りの町で育ったわたしが海への入口を手に入れた瞬間。
❏❏❏
10月の名前のない珈琲:El Salvador
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おだやかに広がるあまさがとても心地良いと思った。
この感覚は、そう、海と川の交わるところに似ている。
時折、どうしようもなく、海を見に行きたくなることがある。
どちらかと言えば、山の風を感じる山寄りの町で育ち、海辺で暮らしたことのないわたしは、日常に海の音が聞こえない。
不規則なようで規則のあるように押し寄せる波、足の指に食いこむ砂の感触、そして、生ぬるい重さを持った磯の香り。
一年のうちで本当に数日だけ、そんなことを思い出しては、海を見に行きたくなる。
季節は夏に限ってはいない。
海にその身を委ねたいわけではないから、季節は特に関係ないのだろう。
海に着いたら、そのすべてを感じながら、砂浜をずずずいっと歩いて、波打ち際に近寄る。
そして、水平線に目を向けて、あぁ、どこまでも海だなぁと思う。
特段、何をするわけでもないけれど、海に反射する太陽の光と海を楽しむサーファーや家族連れをながめていると、こころが自分の体という枠を超えていこうとしているのがわかる。
まるで、自分の体がのびのびの輪ゴムになったようにいろんな方向へと引っ張られていくようだ。
そして、ついに、ぱちんと弾けて、それは枠以外のモノとなる。
山寄りの町で育ったわたしが海への入口を手に入れた瞬間だ。
山から流れ出た川の水が海へと注ぐ。
その川と海の水が合流する場所で起きる交わりは、けっしてはげしくはなく、こんなにもおだやかだったのか。
そのことに、わたしは驚いた。
「海と川の交わるところ」
10月の名前のない珈琲のおだやかに広がるあまさは、そんなことを思わせる珈琲だった。
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