「2023年1月の珈琲 Nicaragua:棘がうずく」
余韻の残る甘酸っぱい香りは、まるで、こころに刺さった棘が、時折、忘れてはいけないとうずいてるようだった。
Nicaragua:棘がうずく
いくつもの視線が通りすぎていく
そのなかからたったひとつ
交わった視線が記憶を呼び起こす
見たことのある光景に
忘れてはいけない
こころにささった棘がうずいた
余韻がのこる甘酸っぱさ
Nicaraguaの豆をグラインダーで挽きながら、すーっと静かに息を吸った。
Nicaraguaの挽いた粉にしゅんしゅんと沸いた湯を含ませながら、鼻の穴をこれでもかと広げ、息を吸った。
Nicaraguaの珈琲をサーバーからコーヒーカップに移し、その湯気に鼻を近づけて、ふわりと、息を吸った。
鼻からはいってきた余韻の残る甘酸っぱい香りに、こころに刺さった棘が、時折、忘れてはいけないとでもいうようにうずくことを感じた。
店に立ちながら、珈琲を淹れる合間に、外の景色を眺める。
目に入るのは、変わりゆく空、街行く人々、そして、その視線だ。
視線の先は、手に持ったスマホの画面や足元が多い。
近くにいながらも、交わることなく、その存在も知らずに通り過ぎていくことの多さに驚く。
そして、驚きながらも、街行く人々とわたしの視線が交わる瞬間が必ずあって、そのことに少し安心する。
視線が交わる確率はどれくらいなのだろう。
そんなことを考えていたら、部分的に切り取った光景にデジャブを感じた。
なんだっけ?
思い出そうとして、こころがいろんな場面を彷徨いはじめた。
そして、ひとつの場面が目の前の光景と重なり、デジャブがその色を濃くした。
それは、こころに刺さっていた棘が、忘れてはいけないとでもいうようにうずいた瞬間だった。
1月の珈琲Nicaraguaの余韻を残す甘酸っぱさは、そんなデジャブが色濃くなる瞬間を思わせる味わいだった。