「3月の珈琲 Guatemala:寄り道に迷う」
思い返せば、迷うことさえも楽しんでいるのかもしれない。
Guatemala:寄り道に迷う
バターの香りにレモンもちょっぴり
きっと、これはマドレーヌ
鼻を頼りに街を歩くと
いつのまにか知らない場所にいた
でも、大丈夫
これはちょっとしたより道だから
軽い気持ちを育む酸味
昼に迷う街の香りは、ちょっとオシャレだった。
まっすぐ続く大通りには、両脇に大きな木が並んでいた。
はしゃぐ子供をあわてて追いかける親。
手を繋いで寄り添いあう男女。
カメラを取り合う友人。
この大通りを行けば、目的地にはすぐに着く。
でも、ここをひとりで歩くには少し寂しさを感じて、横道にそれた。
建物の隙間を行く。
ふと、鼻がしっとりとした香りをとらえた。
あ、バター。
しかも、懐かしい香り…。
なんだっけ、なんだっけ。
心が過去を探りはじめる。
なにかを思い出したくて、さらに、香りを嗅いだ。
あー、レモン。
これは、そうだ。
マドレーヌ!
ダイヤル式の大きなオーブンレンジはオレンジ色の光を溜め込んでいる。
バターの香りにレモンが混ざり、甘い香りが漂ってきた。
チッチッチ、チーン。
豚柄の分厚いミトンをつけた手で、オーブンレンジから引っ張り出された天板には、たくさんのシェル型のマドレーヌが並んでいた。
懐かしくて、オシャレなおやつ。
「マドレーヌ」
その香りに心を奪われていたら、いつのまにか、私は知らない場所にいた。
でも、大丈夫。
オシャレな街の香りが私の知っている思い出の香りと同じだったように、たとえ、寄り道に迷っても、私は私がいるべき場所にたどり着けるから。
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