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「2023年8月の珈琲 Brazil:お囃子が聞こえる」
昼間の陽気をさらう夕立に、屋根を求めて、我先にと慌てる下駄音。
それらを気にすることもなく鳴りつづけるお囃子の音。
Brazil:お囃子が聞こえる
提灯に灯りがともる夏の夕方
浴衣の袖が触れる距離に
膨れあがっていく熱気
ぽつりぽつりと降りだした夕立が
人の波をかきわける
慌てる下駄の音にお囃子が聞こえる
夏祭りのような甘みとまろやかさ
地下にある終着駅ではたくさんの人が電車から降りていった。
冷房がそこそこに効いていた車内から一歩外に出ると、地下とはいえ、むっとする湿気を感じる。
一刻も早く、地上に出ようとする気配に背中を押され、階段を上ると、街には、すでに祭りの賑わいがひしめいていた。
お囃子を聞きながら、いくつもの通りを歩く。
その間も、陽はだんだんと確実に落ちていっていた。
少し暗くなってきたそのとき、提灯に灯りがともり、群衆がわぁっと声を上げた。
浴衣の袖が触れる距離に、人を感じ、電車を降りたときよりも、人がさらに増えていることを知った。
祭りと人々の熱気が膨れあがって、空に昇っていったのだろうか。
ぽつりぽつりと夕立が降りだした。
次第に落ちるスピードが上がっていく雨粒とその大きさが、かるい悲鳴を呼び、人々を商店街のアーケードへと追いやる。
昼間の陽気をさらう夕立に、屋根を求めて、我先にと慌てる下駄音。
それらを気にすることもなく鳴りつづけるお囃子の音が、わたしの耳には聞こえていた。
なぜか、今夏は、故郷の夏祭りのことをよく思い出す。
もしかしたら、数年ぶりに開催する夏祭りや花火大会のポスターを、街中で、よく目にしているからかもしれない。
夏祭りも花火大会も、慣れ親しんだ故郷で開催されるものを見にいきたいのだろうか。
8月の珈琲は、そのひとつを、故郷の夏祭りを表現するものにしようと思ってしまったのだから、やはり、そうなのかもしれない。
夏祭りの非日常を詰め込んだ記憶は、甘くて、まろやかなもの。
あまい飴で包まれたりんご飴のように、果物のような甘さとやさしい飴のまろやかさがほしい。
ならば、Brazilのアナエロビックで精選された豆を、甘さは残しつつ、まろやかさを引き出すために、中煎りにしよう。
こうして、「Brazil:お囃子が聞こえる」が生まれたのだ。