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「2024年3月の珈琲 Ethiopia:甘いささやき」
満開の桜の下にはしだれて揺れる雪柳。
その様子がこころから離れない。
Ethiopia:甘いささやき
ぽつんと芽生えたちいさな蕾
日を追うごとに増すふくらみに
たくわえられるは春を待つ思い
いつしか、ぽっと花開いたとき
甘いささやきがあふれ出て
よろこびにしだれて揺れる雪柳
奥ゆかしい華やかさが甘さの中で花開く
標高差はかなりあったように思う。
住む家から一番近い大きな商業施設のある駅に行くには大きな坂を上って、下りてしなければたどり着くことはできなかった。
それは学校に行くにも同じことで、教科書や体操着で重くなった荷物を背負って、ただひたすら、坂を上っては下っていた。
いくつかルートはあるけれど、そのどのルートにも桜並木があった。
池沿いにある桜並木は、学校へ行くルート。
そして、坂の上へと続く大きな公園沿いにある桜並木は、大きな商業施設のある駅へ行くルート。
雪柳の枝にぽつんと芽生えたちいさな蕾を見て、思い出したのは、大きな商業施設のある駅に行くルートにある桜並木のことだった。
桜並木の下には雪柳が植っている。
このところ、そういった光景をあまり目にしないから、もしかしたら、それはわたしが生まれ育った町だけだったのかもしれない。
とはいえ、京都の鴨川沿いの桜並木の下にも雪柳は植っていた。
ピンク色の桜の下に真っ白な雪柳。
そんな光景がこころに焼き付いていて、離れない。
雪柳の枝は細く、その花はとても小さい。
ただ、その小さくてか弱い雪柳が花を咲かせるまでの様子を見守っていると、春を待つ思いがカタチになっていくさまが感じられて、とても愛おしくなる。
日を追うごとに増すふくらみ。
そこにたくわえられているのは春を待つ思いなのだと思う。
だからこそ、いつしか、その蕾がぽっと花開いたときに聞こえる雪柳の甘いささやきといったらすごい。
雪柳の真っ白で小さな花が春だ、春だとよろこび、しだれて揺れるさまは、満開の桜に比べれば、奥ゆかしいけれど、けっして、引けを取らない華やかさなのだ。
そんな雪柳の春を喜ぶ様子を表現したくて、選んだ豆はEthiopiaだった。
華やかさのあるEthiopiaだけど、今回は、華やかさを前面に押し出すのではなく、少しばかりの奥ゆかしさがほしい。
ならば、焙煎度合いは中深煎りにして、コクのある甘さで華やかさを覆ってあげよう。
そうして、生まれたのが、3月の珈琲Ethiopia:甘いささやきだった。