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宇宙人になった彼
私には宇宙人の友達がいる。厳密に言うと宇宙人になった友達がいる。
彼は前の職場の先輩で、30歳にもなって無職なうえ、仕事を探そうともしていない。親が大金持ちで、親からもらったお金で毎日スタバに行き、YouTubeを開き、少なくとも3時間はぼーっとしている。急に動き出したかと思えば、1人画面を見つめてニヤニヤし、イヤホンをしながら歌っている。社会ではこういう人を社会不適合者だと言うのだと思う。
なぜだかわからないけど、その人とは前の職場で働いていた時からよく話していた。意味のわからない話ばかりだが、なぜか話が尽きなくて終電まで飲んでひたすら話すなんてことを良くしていた。
その彼がおととい「僕は宇宙人だということに気がついた」と言った。
どういうことやねん。宇宙人って比喩的な?それならちょっとわかるかも。
「いや、そういうのじゃなくて。宇宙人やねん。」
まじか。宇宙人なんや。
なぜ自分が宇宙人なのか、宇宙人とはどんな存在でどう社会と関わっているのか。そんなことを熱心に話してくれたのだか正直なにを言っているのかわからない。
わからない、わからない、わからない、そんな感情が続いて、最後に感じたのは「悔しい」だった。
少なくとも、自分が宇宙人だと気づく前の彼の話は共感できることもあった。自分と根本的に似ている人なのかもしれないと思ったところもあった。だから彼の話を理解できなかったことが悔しかった。
分からない中でひとつだけ理解できたことがある。それは彼が今までずっと感じていた「自分は一般社会から少しずれている」という感覚の落とし所が「自分は宇宙人なんだ」という結論に至ったということだ。
完全にわからないところに行ってしまった彼。これから彼は精神を統合するらしい。
理解したいのに、理解できない。
いつか理解出来る日は来るのだろうか。