ワーママ女性CFOがランサーズIPOを経て学んだ4つのこと
お久しぶりです。ランサーズ株式会社で執行役員CFOコーポレート部長を務めている小沼志緒です。
皆様のご支援もあり、ランサーズは、フリーランスの日である2019年12月16日に無事に東京証券取引所マザーズに上場することができました。私がランサーズに入社してから約2年、常に担当役員としてミッションの最上位に掲げていた一大プロジェクトが実現できたことの記念に、そして、2019年の締めくくりとして、ここまでの過程で私が体感し、得た学びを振り返りたいと思います。
主目的としては、私のパーソナルミッションである「日本を代表する女性CFOになり、世の中の女性の新たな道を切り拓くパイオニアになる」という壮大な野望(本気で目指し始めると改めて自分の掲げている野望の無謀さ壮大さに気づきます)の実現に向けたエッセンスを自分用の回顧録として纏めるものですが、同時に、私の回顧録が少しでも「働く時間に一定制約のあるCxO(もしくはCxOを目指している人)」にとっても意味のあるものになれば幸いです。
1.「経営者は9割辛くて1割楽しい」
ランサーズに2年前に入社したきっかけは「早く経営者になりたい(経営者になるために長い道のりを大企業で戦うのではなく、経営者としての経験値を積む方がパーソナルミッションの実現に向けては近道という判断)」というものだったので、入社して1年ぐらいは経営者とは何かについて、頭では分かっていても日頃の言動レベルではできておらず、非常に苦しい思いをしました。
そんな自分も上場に向けて管理体制を整備していく過程で様々な責任を負う立場になり、その結果、役職員からの強い感情を正面から浴びたり、最適解を求めて昼夜問わず頭を悩ませたり、ステークホルダーに対する説明責任を強い覚悟をもって果たしたりする日々が怒涛のように訪れ、ある日閾値を超えたような形で経営者の感覚が突然分かるようになりました。
ただし、分かると同時に気づいたのはその辛さでした。例えば、会社という一つの村で起こる様々なトラブルに対して、毎回裁判官として、当人の顔をあえて見ない形で(つまり公平に)意思決定する(判決を下すようなもの)ことは、非常に心を痛める出来事でした。また、経営者であるからには、会社として決めた意思決定に対して、仮に自分の意見と異なる決定であったり、もしくは、仮にコントロールできない外部事由によって上手くいかないことがあったりしても、その決定が正しいものになるよう、全力を尽くして考え行動し続け、チームを動かし、関係各所を巻き込んで何とか結果につなげることが必要です。その絶え間ない努力と、結果が出るまでは一時も安堵することがない生活が続く、という体力面精神面での辛さもありました。
そんな日々を送る中で気づいたこととしては、経営者の感覚が分かるようになった当初は、自分が6歳と3歳の子育て中の女性であるという特性も活かして、母性的・慈愛的な経営者になれることをイメージしていた(喜んでいた)にも拘わらず、限られた時間の中で日々新たに生じる課題にスピーディに対処せざるを得ない日々が続いた結果、いつの間にか社内では密やかに鉄の女サッチャーと呼ばれるようになりました。経営を推進するということ、増して働く時間に一定の制約がある中においてそれを行うためには、母性や慈愛だけで乗り切れるほど甘いものではない、というのが大きな学びでした。
なお、辛さしかないという誤解を与えないために、同時に楽しさを感じたところも補足しておくと、やはりこれだけ経営スピードの速い会社に入って、役員という責任のある立場で様々な意思決定を担う経験は、自分の成長にとって非常にプラスで、2019年程自分の成長を実感した年はないといっても過言ではありません。成長できる環境に身を置いていること、それによって自分自身が成長できていること、そして、社会的意義の大きいランサーズの成長にも一定寄与できていること、これこそが経営者として、また、個人としての最大の喜び楽しみだと思います。また、9割辛い日々があるからこそ、1割の楽しみが無上の喜びに感じる、その喜びのために信じて日々戦い続けることが重要だということも併せて学んだことです。
2.「心身ともに整えるのも経営者の仕事」
実は、2019年、これまでの職業人生においてはじめて、危うくバーンアウトしかけたことが一度ありました。それは心理的に大きな負荷がある中で、自分の感情にとらわれて日中仕事が全く手につかず、夜中や早朝に終わらない仕事を無理やり片付けるというサイクルを数週間続けた時に起こりました。心身共に疲労がピークになっている中で、かなり判断が悩ましい意思決定をしないといけなくなり、その答えを突き詰めて考えぬいた結果、完全に躁状態になり、よく言えば自分が開眼したような心持ち、悪く言えば発言内容が急に感情的で自信過剰になり、頭がおかしくなったような状態に陥りました。(なお、3日間完全に休養を取ることで何とかその後元の状態に戻ることができました。)
この経験を経て学んだこととしては、経営という長い道のりにおいて、どんなハードシップがあっても走り続けられるよう、常日頃から心身のバランスを整えることは経営者として必要な一つのスキルである、ということです。
バランスをとるために効果的な行動は人によって異なると思いますが、私の場合、土日は原則子供を保育園などに預けるのではなく自分で面倒をみる、ということと(夫が土日に家にいないことも多いので、ワンオペで育児をし、結果、体力的に全く休まらないというマイナスはあったのですが、それでも仕事の話をしない子供と向き合う時間を作ることは、自分にとっての息抜きにもなりました)、友人に進められて始めたマインドフルネスなどにより、ハードシップが起きても必要以上に心を痛めない術を身につける、ということが有効だったように思います。
育児と仕事の両立は大変だ、と言われることはよくありますが、育児と仕事の両立をしていたからこそ、自分の心身のバランスが回復できたことは、大きな発見でしたし、自分が目指しているパーソナルビジョンにも非常に合致しているので、嬉しいサプライズでした。
3.「GRIT(やり抜く力)を高めるにはルーティンが重要」
IPO審査の過程において最もつらかったことは、「終わらない夏休みの宿題をやり続けること」と、「毎日のように生じる大小さまざまなトラブルを瞬時に解決することが求められること」でした。
夏休みの宿題は如何に効率的・計画的にやり遂げるか、トラブル解決は如何に瞬時に動けるかが勝負です。定常的な業務を完全にはハンズオフできていない中で上記の業務をやり遂げるためには、通常であれば(特にIPO直前などは)オフィスに泊まり込んで対応しているCFOが多いと後で聞きましたが、私の場合、日々の子育て(平日は家族の朝食の準備と子供たちの朝の支度や送迎、寝かしつけ等)という家庭でのルーティンがあったため、その奥の手を使うわけにはいかず、結果的に、日々の仕事遂行の仕方を工夫することで対処しました。
決して他人に推奨する訳ではないですが、自分自身の働きやすい仕事スタイルとして、1人目の子供を出産以来、夜早めに子供と共に就寝し、朝少し早く起きて仕事を遂行する、というスタイルを時折とっていたので、このルーティンを活かして、早朝は自分が手を動かす仕事や計画的に遂行すべき仕事に注力し、日中はメンバーからの相談に対応したりトラブル解決に時間を使うというルーティンを編み出しました。このルーティンを確立できたからこそ、IPOの過密スケジュールを乗り切れたと思いますし、ルーティンを確実にこなすことで、仕事の結果もついてきて、それにより会社に対する影響力も増し、結果仕事がより進めやすくなりました。
ここからの学びとしては、時間が無尽蔵にあるわけではない中で、重要で壮大な目標を達成するためには、日々の積み重ねが重要で、それをやり遂げるためにはルーティンに組むこむことが必勝パターンである、ということでした。人によって仕事の生産性が高い時間帯は異なるので、自分にとってのプライムタイムを見つけて集中的に働く、それを自分の中で義務化する(事業で言う目標達成のための行動KPIにする)、というのが大きな目標を成し遂げるためには重要な要素であると思います。
4.「強いチームを作ることがキーサクセスファクター」
前述した通り、家庭に日々のルーティンがあって、仕事100%で生きるわけもいかない私にとって、それでも仕事で期待通りもしくはそれ以上の成果を上げるためには、強いチームを作ることは必須条件でした。
元来チームを率いることは好きでも、人に仕事を振ることが苦手だった私としては、居心地のいいチームを作ることは得意でも、強いチームを作ることは必ずしも得意とは言えませんでした。今回のIPOという修羅場を迎えるにあたって、初めて本当に強いチームを作ることができたと思います。
どうすれば強いチームが作れるか、については、これも決して普遍的なメソッドではないと思いますが、自分自身が重要視していた要素としては、(当然ではありますが)メンバーが安心してついてこられるようリーダーである自分が率先して私心をすて、加えて率先垂範を徹底すること。一方で、メンバーがリーダーに依存しすぎないように、経営の温度感(夏休みの宿題)のタイムリーな共有や自分自身のメンタル面の詳らかな開示(要は弱音も含めて共有する)は意識的に行いました。
更に、やる気があれば何でもできるという思想で、やる気がある人・成果がでている人にはその報酬としてより魅力的な仕事(その人にとってWillのある仕事)をアサインし、やる気がない人に対しては、能力に関係なく、その人のやる気に応じた仕事をアサインするということを規律として徹底しました。この際、各自がWillを安心して開示できるよう、心理的安全性の担保と業務負荷が高すぎる状態にしないためのサポート体制は常に心掛けていました。
そもそもチームとは生き物なので、常に状態は変動するものですし、元来チームや人を変える等と思うこと自体がおこがましいことですが、背水の陣であったこともあり、諦めずにやり続けた結果、ランサーズのコーポレートは非常に強いチームになることができましたし、そのチームがいたからこそ、無事にIPOできたと思っています。
働く時間に制約があるCxOにとって、自分が不在の間に適切に業務を推進してくれるチームがいることは、成果を出すためには最重要のキーサクセスファクターではないかと思います。
最後に
2019年を一言で総括すると、経営者1年目として、9割の苦しみと1割の達成感をかみしめつつ、個人としては大きな成長実感を得ることができた1年になりました。この全ての過程において、経営者として共に走ってきた秋好さんをはじめとしたランサーズ経営陣の皆様と、常に私のそばにいて支えてくれたコーポレートチームと家族には最大の感謝をしたいと思います。
2020年も新たな挑戦を続ける1年になりますが、今年と同様、もしくはそれ以上の仕事での結果とランサーズと個人の成長に向けて、邁進していきたいと思います。
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