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29歳の女の人 、婚活が上手くいっているのに、上手くいかない。

これは、上手く行くはずなのに上手くいかない婚活の話。

手元の携帯にはマッチングアプリの画面が光っている。見返すたびに、少し気が重くなるのを感じた。今日は初めてマッチングした相手と会う日だ。自分が気に入ったから会うんじゃないの?と思うかもしれない。そうでもないけど会ってみようかなとなる時があるのだ。それが今日。めんどくさがりの女が、男性に会うために、かれこれ30分くらい電車に揺られている。

自宅からの最短距離でなく、少し遠回りになる電車を選んで、待ち合わせ場所に向かう。なんとなく自分のテリトリーで会うのは嫌なのだ。後日通り過ぎるときに、これからどうなるかわからない相手との思い出を残したくないから。神経質なのかもしれない。

まずは最初だから、相手の自宅の近くであいませんか、と提案した。ディナーを提案されたが、夜の雰囲気に呑まれて相手が少し良く見える気がするから、昼間に会いませんかと言った。相手はそれでいいと返す。別に下心を警戒しているわけでもないが、なぜか初対面の相手と夜に会うのはもったいない気がするのだ。自分の夜が。

電車に乗りながら、【マッチングアプリ 出会う】、【マッチング 会った】と検索をかけて、最初に出てきた記事を読む。参考にしようと思って読み始めるが、会ったばっかりで体の関係をもったとか、変な男にひっかかってしまったとか、そんな記事が多い。最初は自己投影しながら、話が崩れてくるにつれて他人の悲惨なストーリーとして楽しんでしまっていた。参考にはならなそうだ。

最寄りの駅について携帯をみると「いま改札に居ます。ロングのブラックのコートを着ています。」と連絡が入っていた。12:10分。待ち合わせより5分早い連絡。気遣ってくれてありがとう、と思いながら、化粧室に入ってリップを塗り直す。流行りの住宅地だからか、化粧鏡に向かって年頃の女の子が前髪を整えているのをみて、彼女たちには無条件の恋愛を謳歌してもらいたいと感じた。

「こんにちは。」私は最大限の笑顔で、相手に好印象を与えようとする。それと合わせて、相手の顔の印象をさぐる。アプリで見た写真よりも、すこし眼が眠たそうだった。私より年上で、すこし老けた印象があるが、そんなに気にならない気がしていた。「じゃあ、お店予約しているので行きましょう。」そして、横に並んで歩きはじめる。

「あ、このお店ですね。」「素敵ですね。」

昼の店内は家族連れで賑わっていて、パスタランチを2人で注文した。そこで気づく。私はそんなにお腹が空いていないのだ。普段からあまり食が太い方ではないので、コミュニケーションを深めるためには食事から、と決まっているのが憎らしかった。食事を摂らないとという焦りと、会話を交わすことで頭を使い食事のペースが遅くなるのもコンプレックスの1つである。そんなに高スペックな脳をもっていない。

「はじめまして、今日は遠くまでありがとうございます。」

「いえ、素敵な街ですね。」

「そうですよね、長く住んでいるんですが、いい街ですよ。」

声色の確認以外、なんの意味も持たなそうな他愛もない会話と、マッチングアプリで交わした会話の延長線みたいなことを繰り返す。まるで、職場で取引先と話すように会話をこなすし、自分を魅力的にみせるように普段はつくらない肉じゃがのコツについて披露したりした。

一通り自分のひととなりと、仕事の話をした。そうすると、相手はこう聞いてきた。

「仕事、結構好きですか?結婚しても続けたいですか?」「そうですね。続けたいと思っています。」

「子どもは何人か欲しいですか?」「あまり具体的には考えていないですが、1人でもいたら良いですよね。」

この2つの質問が、私の心のどこか暗いところを刺激したらしい。そのタイミングから、彼が考えている間に細い目が上を向くときの形が、だんだん気になり始めた。

「逆にお聞きしますが、貴方はすぐ結婚したいですか?」そう聞いてみた。

「そう思いますが、まあ、パートナーになるなら、よく話し合ってから、と思いますね。結婚のタイミングもそうだし、子どもができたら僕も手伝いたいし、仕事もやりたいならやってもらいたい。それをサポートして、一緒にいたいなとおもいます。」

100点満点の答えだ。

しかし、私にはどこか嘘っぽく聞こえた。もっと人生でやりたいこと、試したいこととか、主張が無いのか気になったし、「年齢も気になるから結婚したらすぐ子どもを産んで欲しい」とか、「僕は安定した仕事をしているから、君は働く必要がないかもしれないよ」とか、彼なりの主張を押し付けてほしかった。もちろん、言われたとおりにする気はないけど、(子どもも産むタイミングは考えたいし、仕事も続けたいし欲張りなのだ)それでも、彼の考えをぶつけられて、私が考え直すぐらいまで踏み込んできてくれたら嬉しいのだ。


パートナーになるにはお互いのことを考えて、というが、それは譲歩でも妥協でもなく、和解なんだと思う。多分目の前の細い目の相手は、「僕はこういう条件を持っていて、合えばすぐにでも結婚したいと思っていますが、あなたの意見も聞かせてください」と言ってくれたら、あ、なるほど、私も彼を理解しよう、と思うだろう。「僕はあなたに合わせるので、あなたの条件がどうとでも受け入れますよ」と言われてしまうと、極端な自分の主張だけでつくりあげられる環境に歪さを感じると思うのだ。それは、私が過ごしやすい環境なだけで、相手が望んだ環境なのか、”結婚”と”子ども”というラベルを得たいだけの行為なのか、わからかった。

そして、だったらこんな偏屈な女よりも、別のもっと柔和で素敵な女性で良いんじゃないかと思ってしまうのだ。そして、食事が終わるころには、最初はチャームポイントだと思っていた相手の細い目の、黒目がどこを向いているのかが余計に気になるようになっていた。


会計は2:3で割った。おごりじゃないんだな、これって大人なやりとりだな、おごってくれてもいいんだけど、プライドを考えてくれたのかな、と思うが、遠くまで出てきて、そんなプライドなんて持ち合わせてなかった。素直におごって欲しいと思った。

「今日はありがとうございました。次の予定が入っているので、今日はこのへんで失礼します。」

「このあとちょっと散歩でもと思ったのですが、残念ですね。僕は、また会いたいと思っています。平日でも、夜でも、いつでも大丈夫なので。」

「はい、またぜひ。」


そう言って改札で別れ、その足で予定にもないショッピングに向かった。街を歩いてお気に入りのブランドの服をみながら、今日の出来事を整理する。結局、この相手とは連絡を取らなくなるんだろうと思った。ポンポン鳴っているLINEのアラート音を聞きながら、真面目に連絡をいれるより、自然と連絡が無くなってくれればいいと思った。

結論をまとめると。

私に必要なのは、私自身の結婚する意思でも結婚したがっている相手でもなく、尊敬できる生き方をしている相手なのかもしれない。

その相手を理解し、自分の生き方と重ねて照らし合わせ、納得ができるところでお互いを助ける。そんな理想な関係がだれかと築けるだろうか。

こんな理想ばかり語っている私には、まだ結婚は早そうだ。

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