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【解説第一弾】映画 劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師

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アイサイナマステこんにちは!さけねこでございます。今回は『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』の解説考察を行いたいと思います。これを観れば本作をもう一度観たい!!と思えるだけでなく、法然上人をモデルとした土井先生の壮絶な過去から皆さんが気付かなかった天鬼の本当の狙い、そしてその狙いにいち早く気付いたからこそ出来る雑渡昆奈門先生の裏の活躍っぷりがめちゃくちゃ分かり、本作を観る解像度がグンっと上がるはずです。
私は忍たま乱太郎が大好きで、放送はほぼ観ており、原作小説、前作の映画、全てを網羅し豆腐や雑炊に過敏に反応を示すくらいにはファンの一人です。特にきりちゃんは大好きな一人なので本作は大号泣でした。やばい。今回はファンの一人としてもそうですが、大学で仏教を中心とした宗教学を習ってきたことを活かし、パンフレットや監督の対談等も含めてできる限り裏が取れているお話を中心に解説していきたいと思います。長尺の動画となりますが、時系列に沿ってお話していきますし、伏線の説明もありますのでぜひ最後まで映画を思い出しながらご視聴いただけたらうれしいです。

オープニングの真意

1. 土井先生はなぜドクタケ忍者隊の軍師に?

● モデルは法然上人──“土井先生”と“勢至丸”

オープニングでは藁人形を遺体に見立て、その後ろで炎上する家屋や、血しぶきを表現した彼岸花という恐ろしげな光景で始まります。これは記憶を失った土井先生が唯一覚えていた過去を表していました。
本作のキーパーソンである土井 半助(どい はんすけ)。彼のモデルと言われるのが、浄土宗の開祖・法然上人(幼名:勢至丸)です。法然上人は9歳の時に父・漆間 時国(うるま ときくに)を夜襲で失うという悲劇を経験しました。原作者も土井先生の父を時国だと明言しております。臨命終時の父から「敵を恨むな。報復は因果の連鎖を生むばかりだ」という教えを遺され、出家して仏門を求める道へ進んだことは有名です。
土井先生も、同様にかつては豪族の出身でしたが夜襲に遭い家族の死を目の当たりにした過去があります。そこに真っ赤な彼岸花が咲き乱れる光景がオープニングと重なります。彼岸花は別名「曼珠沙華(まんじゅしゃげ)」とも呼ばれ、あの世や死を連想させる花として知られていますが、別名を「南無阿弥陀仏」と呼び、法然上人が説いた念仏と同じです。死の象徴性も相まって、本作では土井先生が背負ってきた“家族を喪失した記憶”を、繰り返し映すモチーフとして描かれています。また、これをオープニングや記憶を喪失した後に描くことによって土井先生の記憶が無くなった後も鮮明にこの悲劇だけは覚えているという表現がなされていました。

稗田八方斎の戦略は奇しくも土井先生の欠けた心と記憶を充分に満たす形となり、土井先生は天鬼へと変貌を遂げました。

● 天鬼への変貌と小説版との違い

土井先生がドクタケ忍者隊の軍師「天鬼」として登場するのが本作最大の衝撃です。劇中では、八方斎と頭をぶつけたことがきっかけで記憶を失い、己が土井 半助であるという認識を忘れ去ってしまった、という設定でした。ここで重要なのが、小説版との違いです。
小説版では土井先生とかけ離れた人格として描かれていますが劇場版では「土井半助」という根っこは変えずに、あくまで「平和の為に軍師をしているという人格であるように演技をしてほしい」と土井半助を演じる関俊彦さんに監督が依頼しています。
つまり人格は土井先生と変わらず、むしろ夜襲に遭った後に救ってくれたのが僧侶や山田先生でなくドクタケであったら、というifストーリーを観客に提示していました。
さらに「白装飾をまとう」姿が登場しますが、これは彼が過去(“土井”としての自分)を捨て、新たに“天鬼”として再生したことを象徴しているようにも見えます。その証拠にモデルである法然上人の父が◯される前に、最期に法然上人の前で身に纏っていたのが“白装束”であり、土井先生の父が闇討ちに遭った時の記憶が残っていることを象徴しているようです。

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