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トップアスリートの成功条件とは 〜アスリート人生を充実させるものは何か〜/Insight #20

割引あり

プロ選手のマネジメントだけでなく、自身が代表としてチーム経営を行っている 上田頼飛(うえだよりたか)氏をお招きし、トップアスリートとして成功する人の本質について語り合いました。


<登壇者紹介>
ゲスト 上田頼飛氏
(株)ワンリーズ:代表取締役ほか3社を経営
プロバスケットボールチーム ONELYS wakayama 球団代表 兼 ヘッドコーチ

ゲストコメンテーター  續木智彦氏
西南学院大学サッカー部監督

司会進行 和田タスク
前FC町田ゼルビアスタジアムDJ

タスク:本日のゲストは上田頼飛さんです。「ONELYS wakayama」は、何の球団でしょうか?

上田:バスケットボールのBリーグを目指す球団です。和歌山で立ち上げて4年目を走っています。

タスク:なぜ立ち上げることに?

上田:10年前に47都道府県で唯一、JリーグとBリーグのない和歌山県に引っ越しをして。聴覚障害者のデフバスケットで日本代表の監督をしていたので、「プロスポーツチームとか立ち上げてみたら?」とよく言われてたんですよ。

「でもなあ、別に…」と思っていましたが、和歌山の子どもたちがプロのスポーツを見たいと思った時は大阪に行くんです。それって、近くに憧れのお兄ちゃん(選手)がいない状態ですよね。

それなら、地場で子どもの憧れを作り、高齢者の方達もついていって元気になるとか、いろんな環境を整えられるんじゃないかと思って始めさせてもらいました。

タスク:指導者の道はどうやって歩まれたのですか?

上田:家庭環境がよくなかったので、学校へ行って部活動をやるタイプでもなく、路上や公園でバスケットをして育った。大阪の西成高校でバスケットを教えたことがきっかけで、指導者の道を歩むことになって。選手を目指してプロテストも通っていたのですが、ケガがずっと続いて。神さまに「もうやめとけ」って言われてると思って指導者一本になりました。

タスク:他にも事業をされていますか?

上田:障害のある子どもの放課後等デイサービスや、精神障害の方の訪問看護、就労支援事業所のB型などの経営をしているのですが、全部バスケットボールのチームメイトでやってるんです。ある法人はアシスタントコーチが施設長をしていたり、ある会社は別のコーチが社長をしていたり。

タスク:人に対して奉仕・助けることが全体的に見えるんですけど。

上田:大学のときに児童養護施設へ実習に行ったんです。胸に刺さるものがたくさんあって、支援をしたいと思ったときに、「お金と時間が絶対にいるよな」と思ったんです。でも、お金を渡しているだけでは何の意味もないので、いい人と出会ってもらって、いい仕事を作って、いい街を作らないといけない。

そのために何ができる?俺はバスケットをやってきた。作るのは得意なので、作って誰かに託して育ててもらう。これをチームでやってる感じです。

トップアスリートや球団は、みんなの目的を遂行するための「指標」にならないといけない
@18:35


タスク:Bリーグに入るためには何が必要ですか?

上田:B3はお金の問題が一番多いかなと。上がっていく条件としては、アリーナや来場者数などいろんなガバナンスがあります。

タスク:プレーについては、強くないと当然上がっていけないと思うんですが。

上田:それに伴って、メンタルの部分、人望は間違いなく必要で。将来のことまで考えながらプレーできる人は、必ずできるようになる。

表現が悪いかもしれないですが、ランクが下がれば下がるほど、「得意」だけで戦ってるんです。簡単にいえば、フィジカルはあるけどスキルがない、スキルはあるけどフィジカルはない。

上級者になってくれば、頭もついてくるし、オフコートでもリーダーシップを取れるとか、三拍子・四拍子とそろってくる。そうなってくると、本当の意味でアスリートですよね。

タスク:どういう選手がトップアスリートだとお考えですか?

上田:プロ選手というのは、周りから思われてはじめてプロ選手なんです。人の憧れなんですよ。それなのに、自分のために球団や街があると勘違いしてるケースが多いと思ってて。

街のためにプロ球団があり、球団のために選手がいる。それをわかっている人が中心になって、「あなたが出て負けるなら納得します」とみんなが思える人だから、試合に出られると思うんです。

トップアスリートや球団は、みんなの目的を遂行するための「指標」にならないといけないと思ってます。上手くいっていないチームの中には、球団だけが独り歩きして、運営のために慈善活動をしたり、スクールやアンダーチームを持ったりして。子どもたちの見本になることをあまり考えられていない気がする。

タスク:人間力を育てていくことは可能ですか?

上田:可能やと思ってますけど、100人いたら1人とかじゃないんですか。努力して上がってる人たちは、好きなことだけしてるんじゃなくて、嫌いなことも好きなことのようにハードルを越えていってる

シュートが得意だからそれだけ伸ばせばいいとか、それだけで上には行けないですよね。だから、苦手なことを伸ばして、イレギュラーなことも涼しい顔をしてやる。そういったことで人間力が育つと思ってます。

一緒に創りあげていくために提案をしよう
@28:26


タスク:どのようにマネジメントをされているのですか?

上田:環境ですね。誰に相談するか。聞き心地のいい言葉だけ言ってもらえる人のところで過ごしていると、脳も筋肉と一緒で負荷がかけられてないと、耐性が弱くなっていくんです。ここ一番のタイミングで粘ることができない。

チームには「提案をしろ」と言ってます。創造性のない人間は身を委ねるだけで何も作っていくことができなくて、環境に弱くなる。「監督と合わなかった」とよく話を聞くと思いますが、あなたが合わせないといけないんです。

いろんな選手がいるのだから、意見が違うのは当然。そのために監督を置いているわけで。まず提案をして監督の意見とすり合わせていき、第3の意見を言えるようになるのは大事なのかなと。

タスク:コミュニケーションできる人でないといけないってことですよね。

上田:白か黒かじゃないんです。一緒に創りあげていくために提案をしようと。B1の試合で毎プレーごと監督に「次どうします?」と言ってるベテランの司令塔の人を見かけたのですが、「何年もやってきて提案することができないのかな?」という目で見てしまった。関係性すら作れないのかなと。

だから、アスリートは引退後やる気はあるけれど、クリエイトできない。セカンドキャリアに困らないはずなのに、なぜ困るかというと、創造性がないんです。

タスク:指導者側もそうでないといけない気がします。上田さん自身も選手へ提案するんですか?

上田:試合前にします。試合中は喜びすぎない、落ち込まない。心の波動を一定に保つようにしてます。バスケットはコートが近いから言いたいことを言っちゃう。選手同士でたくさんコミュニケーションを取らないといけないのに、監督がメインになっちゃうんです。

監督が言ったことをすぐに修正できるなら、それはNBAレベルです。そこまでできなくてもいいけれど、考えることが大切賢い人とそうでない人の違いは、粘り粘れるというのは、考え続けられること。わからなくても考え続けて進まないといけないから。

育成年代から考え続けられること、努力し続けられることをどれだけ身につけさせてあげられるか
@43:17


タスク:「育成年代のうちに伝えておきたいこと・身に付けておくべきことは、ありますか?」と質問をいただいています。

上田:褒めるのはいいけれど、特別だと勘違いさせたらだめです。「ドリブルができる!うちの子はすごい」とか。簡単に超えられてしまうことを特別にしてしまう。これは子どもを伸ばさない。

タスク:「体育が嫌いで、スポーツそのものに教育効果はないと思っています。しかし、トップアスリートには人格者であってほしいのですが、どうお考えですか?」と質問をいただいています。

上田:スポーツってすばらしい。ボール1個だけで友達になれるんですよ。単に楽しむのか、コミュニケーションのツールとして使うのか。細かい話でいうと、ボールを使って認知機能を上げるとか、教育というより脳発達の効果を考えた方がいいと思ってて。

また、アスリートが人格者という話には勘違いがある。何か問題を起こしたときに、「なんでこの人が」と言うけれど、みんな普通の人間なんですよ。

スポーツだけやってると、どこかで満たされないものがあって刺激が欲しいと思ったり、見下されてカッとなって手が出てしまったりとか、そういったところに行き着いてしまう。

だからこそ、育成年代から考え続けられること、努力し続けられることをどれだけ身につけさせてあげられるかなと。

タスク:上級レベルの選手へのかかわり方はどうしていますか?

上田:自分のレベルを超えてる選手の指導ってできない。アシスタントコーチから「自分が言ったことで選手に嫌な顔をされるのが心苦しくて、自信が持てない」と質問がくる。

そのときに言うんです。「どんな選手でも、放っておいても育つ部分があって、落ち着いて見てあげるだけでいい。河村選手のようなレベルの高い選手がいたとしても、彼らが安心して過ごせる環境を提供してあげるだけ」と。

第三者に育ててもらう感覚を持った方がいい
@1:01:42


タスク:「サッカーをしている息子がいるのですが、環境面で都会との差を感じることがある」と質問をいただきました。

上田:地方との差は間違いなくあって、是正したいから僕は街の憧れを作ろうと思ってやってる。もっと広く考えて、サッカーに関連する方だけとつながるのではなく、他のスポーツや指導者・選手たちとトレーニングをしたり、いろんな考え方を学んだりしていくことが子どもの可能性を広げていく

たとえば、年に3〜4回は別のスポーツをやったり、誰かと交流をして経験ができれば、地方のチームでもマイナスになることはないと思ってるんですよ。都会と同じやり方ではなく、地方には地方のやり方があるから。

タスク:「上手さと人格はどちらが優先ですか?」と質問をいただいています。

上田:20年以上指導をしていますが、短期的なものを選ぶとそこで成功をしても後につながらない。「この人を出して負けてもいい」と思うのだったら、その人を使うんです。今年は入れ替え戦に絶対いこうと思ってるから、外国人選手の獲得をしたり、短期契約のシェアを取ったりしたのですが、全員人格で見てます。

タスク:「指導は、叱らずに褒めた方がいいといわれていることもありますが、使い分けはどう判断すればいいですか?」と質問をいただきました。

上田:叱る・褒めるじゃなく、正しく評価するんです。「俺はこう思ったけどどう思ったの?」という質問ですよね。お互いに考えさせる。これが指導の原点だと思うんです。本人達に葛藤させた上で「次チャレンジしていこう!」と一緒に対話していくんですよ。

タスク:本日の率直な感想を聞かせてください。

上田:みなさん、自分が子どもだったときを思い出してほしい。親の言うことって素直に聞けないじゃないですか。だから、自分が指導するというよりも、第三者に育ててもらう感覚を持った方がいいかもしれない。

近所のお兄ちゃんに育ててもらう、コーチの知り合いに話をしてもらうとか。全部やろうと思うから苦しかったり、できない理由を言ってしまったりするんで。

自分たちがやってることは、子どもからすれば憧れなんです。力まず人を頼るってことも、僕はいいと思うんです。


次回の案内と「The Blue Print」のお知らせ

タスク:次回12月6日(金)のインサイトは、「逆をとるセンスは教えられるか」というタイトルで、2回目の登場、前田秀樹さんをお迎えします。

また、「The Blue Print(ブループリント)」というオンラインコミュニティをFacebookグループの方で持っています。意見交換ができるようになってますので、ぜひご活用ください。
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