AI搭載の客観的な3Dスポーツパフォーマンス分析は日本でも浸透するのか?
この記事では、2024年8月の気になるゴルフニュースをご紹介します。
2024年の全米オープンで4年ぶり2度目の優勝を果たした、ブライソン・デシャンボー(米国)が、2024年7月に同国のスタートアップ、Sportsbox AI, Inc. とパートナーシップ契約を結んだことを正式に発表しました。
この発表を受け、ゴルフに限らず野球やテニスなど様々なスポーツ競技で、AI技術を搭載した3Dスポーツパフォーマンス分析が主要になっていくことを、多くの人が強く確信したのではないでしょうか。
Sportsbox AIは、ゴルフの3Dスイング解析アプリですが、GearsやKーVestなどの従来の3D分析システムとは全く異なるアクセシビリティを持っています。特別なセンサーを取り付ける必要がないため、コースや練習場など屋外で使用できるモビリティの高さや、スローモーション動画をスマホで撮影するだけで後はAIが作業を完結してくれる手軽さ、年間たった数万円のコストで利用できるお手頃な価格帯が魅力となり、ゴルフコーチや高いレベルでプレーするゴルファーから人気を集めています。
そして先月、このSportsboxのユーザーとして、パートナーに名乗りをあげたのがLIV Golfツアーで活躍するブライソン・デシャンボーです。
デシャンボーは、スイング理論やクラブセッティングに独自の理論を持つことから「マッドサイエンティスト」の異名で知られていますが、他の選手とは異なるデーター重視の科学的なアプローチでこれまで数々のタイトルを手にしてきました。自分のプレーに試行錯誤を重ねるあまり、トーナメントの最終日前日も暗闇のなか練習を続けるほど。その姿勢は「クレイジーだ」とメディアに報じられたこともあります。
デシャンボーがゴルファーとして全米にその名を轟かせたのは、2015年にNCAA個人選手権と全米アマチュア選手権の同年優勝を、史上5人目として成し遂げた年ではないでしょうか。(デシャンボーの他に、ジャック・二クラス、フィル・ミケルソン、タイガー・ウッズ、ライアン・ムーアがいます)そして、その翌年の2016年にプロ転向しPGAツアーでのキャリアをスタートさせ、2018年には年間4勝を挙げ、ライダーカップのアメリカチーム代表にも選出されました。
デシャンボーの復調をサポートしたSportsbox
2024年6月、パインハーストリゾート&CC パインハーストNo.2(ノースカロライナ)でおこなわれた全米オープンゴルフ選手権では、最終日、残り5ホールで2打のリードを持っていたローリー・マキロイを1打差で制し、ブライソン・デシャンボーが見事逆転優勝を果たしました。
デシャンボーは、この優勝会見で関係者各位に感謝を述べた後、Sportsboxのサポートについても触れました。今大会では、Sportsboxから得たスイングデータと、Foresight(弾道測定器)のショットデータを組み合わせて、パフォーマンスを包括的に分析したことが、1年ぶりにショットの手応えを感じられた要因だといいます。関係者は、分析を繰り返し必要な選択を重ねることで、兆しをつかみ一気に水曜日の練習ラウンドから復調したと語っています。
Sportsbox AIの3Dスイング分析に必要なものは、スマートフォン一台のみ。その手軽さと知りたいデータを簡潔に正確に確認できるメリットから、チームデシャンボーは、全てのスイングを録画し、Sportsbox AIで回帰分析をリアルタイムでおこないながらスイングを調整しました。
全米オープンでは、右方向へのミスが気になっていたことから、スイングのどんな動きが右方向のミスへ繋がっているのか、その直接的な相関関係をデータで洗い出したといいます。ダウンスイングで体が左へ流れすぎないよう、骨盤が横へ何センチ移動するのがベストかその量を厳密にチェックし、骨盤の横移動と、それに伴う上半身の側屈を減らすことで、クラブヘッドのリリースをコントロールしようと取り組んだんだそう。(*)
そして2024年7月にロイヤルトルーンGC オールドC(スコットランド)でおこなわれた全英オープン選手権でもSportsboxをフル活用し、スイング調整に取り組んだといいます。デシャンボーは、「全米オープンで効果的だった感覚が、すぐに効かなくなった」と、自分の望むデータを出せる新たな感覚を模索しました。多くのゴルファーが、調子が良かったときの感覚を取り戻そうとするなか、彼は自分に必要なデータを実現できるよう感覚の方を調節している点が他のゴルファーと異なるのかもしれません。
この全英オープンでは、ダウンスイングで適正な位置に上半身を維持するために、バックスイングで正確に胸を回転できているか、その回転量や左右の位置を注意深くチェックしたといいます。また、この大会でデシャンボーはプッシュドローを求めていたため、トップで上半身がアドレスより3〜5cmトレイル側(右打ちの右側)に位置できる感覚を探したといいます。(**)
コーチのダナは、Sportsboxは単にデータ上の特定の数値を目指すためのものではなく、身体の感覚と望む結果が結びつくスイートスポットを探すための手段だとし、デシャンボーの自然な感覚とデータがどうフィットするのか理解することで、スイングをベストな状態に調整し安定させることができると語っていました。
2024年7月Sportsbox AIは、ブライソン・デシャンボーとパートナーシップを結ぶことを発表しました。今後、デシャンボーはパートナーとして、新しいツールの作成や製品開発・改善に積極的に関与していくとのこと。このパートナーシップを受け、SportsboxがAIテクノロジーを基盤としたスポーツパフォーマンス分析を先導していく主要なプロバイダーになることが期待されています。
デシャンボーのコーチであるダナは、Sportsboxの最も優れている点としてコーチがいないところで自主練習するときでも、自分自身を正確にモニターできることだと語っています。これは、コーチがいなくても正しく練習でき、練習のクオリティーを保てるということなので、選手は少ないレッスン回数で早く上達できることを期待できるでしょう。
主観的な感情や偏見を排除し、事実やデータに基づいてパフォーマンスを評価することがスポーツ上達への近道だと考える人々から支持されているSportsbox。安価なコストでどこでも利用でき、自分のよい状態を維持するための「適切な調整」ができる点は、非常にメリットが高いといえます。2Dで正確に観測することが難しいクラブのラグや上半身の側屈も、Sportsboxの3Dスイング分析なら正確に実際の構造を測定することができるのです。
2024年6月、待望の野球・ソフトボールの初期バージョンが完成しパートナーとテストをおこなっている最中であることを、SportsboxのCEO、ジヘ・リーがcheddar newsのインタビューで明かしました。(cheddar newsより)今後、テニスや陸上競技など、様々なスポーツでSportsboxのテクノロジーが利用されることに期待が高まっています。
◆Sportsbox AI
公式ウェブサイト
Instagram
◆Sportsbox 3D Golf
ダウンロード(iOS)
ダウンロード(Google Play)
◆参考資料
(*)(**)ともに、「Dana Dahlquist Webinar - Coaching Champions with Data by Sportsbox (YouTube)」より
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?