スイングのタメについて(前編)
大きなタメのあるスイングでボールを豪快に飛ばすプロのスイングに憧れて、真似しようとしているゴルファーは多いかもしれません。
確かに、正しくタメを活用できれば飛距離アップにつながりますが、一般のアマチュアゴルファーにとっては、プロのようなタメやハンドファーストは必ずしも必要ではないと言われています。
この記事では、なぜアマチュアにとって大きなタメが必要ないのかに焦点を当て、タメについて詳しく解説していきます。
▍タメって何?
今回のテーマである「タメ」。海外では遅れや遅延を意味する「ラグ(Lag)」と呼ばれています。
ゴルフにおいては、主にダウンスイングで使われるゴルフ用語で、手元が先行し、クラブヘッドが遅れて下りてくる状態を「タメがある」と表現します。この遅れによって、クラブヘッドがインパクト直前に加速し、ボールに大きなパワーを伝えることができるのです。
タメは、スイングを正面から見たときに確認しやすく、クラブシャフトと左腕が作り出す角度の大きさで、その大きさを評価することがます。(上の画像のピンク部分がその例です)
強い・大きいタメとは?
このクラブシャフトと左腕が作り出す角度が小さく、狭ければ狭いほど、タメが強く大きい状態を表します。ダウンスイングでは、手元がクラブヘッドよりも大きく先行しており、手が下降しているのに対し、クラブヘッドはまだトップ付近に残っているのが特徴です。この状態では、ヘッドよりも手の移動距離の方が大きいか、手とヘッドの移動距離がほぼ等しいことが分かります。
少ない・小さいタメとは?
一方で、クラブシャフトと左腕が作り出す角度が大きく広いほど、タメが小さくなり、クラブヘッドが手元に追いついている状態になります。
この状態では、ダウンスイング中にクラブヘッドが手の位置に近づき、体の真横にあるため、手の移動距離に対してクラブヘッドの移動距離が大きくなります。
タメがないスイングはエラーなのか?
タメが少ない状態は「タメが解けている」や「アーリーリリース」と呼ばれ、一般的にはスイングエラーとして認識されていますよね。
タメが解けるタイミングには、ダウンスイングの序盤(P4〜P6)でタメが解ける場合と、インパクト手前のP6〜P7でタメが解ける場合の2タイプがあります。しかし、いずれのケースでも、一度タメが解けてしまうと、そこからタメを取り戻すことはほとんど不可能です。
…ですが、これらの動きが本当にスイングエラーとして認識されるべきなのでしょうか?
Pシステム(ポジションシステム)のおさらいはこちらで確認してみましょう。
タメに直接関わるパーツ
タメが大きい人と小さい人の違いは何でしょうか。どうすればタメの大きさを調整できるのかについて考えるとき、皆さんはどの要素がタメに最も直接的に影響を与えていると思いますか?
「バックスイングで腰をフラットに回すからトップで手が頭に近づき、シャフトを立たせて下ろすことで早くリリースされるのでは?」や「グリップの握り方の問題かも」「手の力が強くてアウトサイドインになるから」「トップで腕が曲がっているから」「下半身が使えていないから手打ちになってタメが解ける」など、さまざまな答えが考えられるでしょう。
これらの要因は確かにタメが解ける可能性を引き起こしますが、必ずしも「=タメが解ける」と直結するわけではありません。これらは間接的に影響を与える要因であり、タメに直接関わる要素ではないのです。
タメが解けるかどうかに最も強く関係しているのは、「両手首」の動きです。
特に、両手首の橈屈を維持できれば、タメは大きくなります。一方、両手首が尺屈すると、タメは解けてしまいます。
橈屈はコック、アッパーヒンジ、アッパーコックと呼ばれ、尺屈はダウンコック、ダウンヒンジと呼ばれることもあります。雑誌や動画で耳にしたことがあるかもしれませんね。
この手首の動きには正常な関節可動域があります。
・尺屈(内転)は55°
・橈屈(外転)は25°
(日本整形外科学会より引用)
通常、手首はこれくらい動くのですね。
さて皆さんは、アドレスからトップまでのバックスイングで、プロゴルファーたちが平均してどのくらい手首を橈屈していると思いますか?
(答えは後編に書いてます。)
▍タメとリリースの関係
切り返しで生成されたタメは、インパクトへ向かう中で徐々にリリース(解放)されていきます。しかし、タメは「大きければいい」というわけではなく、大きすぎも、少なすぎも問題です。
過度なタメによる問題
ダウンスイングで大きなタメをキープしたままインパクトを迎えると、振り遅れが発生します。「振り遅れ」が起きた場合、次の2つの問題が発生します。
【1】飛距離の最適化が難しくなる
【2】スイングの難易度が上がる
①飛距離の最適化が難しくなる
飛距離の最適化とは、そのゴルファーのヘッドスピードを基準に到達可能な飛距離を指します。タメを強く保ったままインパクトすると、ボールは低く飛び出し、空気中でボールを保てる十分なスピン量が不足するため、打球が急激にドロップしてしまい、結果として飛距離をロスします。つまり、プロのようなヘッドスピードがないゴルファーには、プロのような過度なハンドファーストは必要ありません。
②スイングの難易度が上がる
タメが必要以上に強い場合、手元が過度に先行してクラブヘッドが遅れてしまい、ショットを打ちやすいゾーンにクラブを運ぶことが難しくなります。ここからなんとかボールを打つためには、上半身の右サイドベンドを使ってクラブを押し込むか、上体の前傾姿勢を起こして手元を浮かせ、クラブヘッドを押し込む時間を稼ぐなど、何かしらの帳尻合わせが必要になります。これらの動きは再現性が低く、スイングの難易度が大幅に上がります。
もちろん、①も②も必ずしも悪いわけではありませんが、これらを強いるゴルフは少し大変かなと思います。
タメがないときの問題
ダウンスイングの序盤でタメを解放すると、様々な問題が発生します。代表的な例としては、インパクト前にヘッドが地面に到達してしまう「ダフり」や、クラブからボールへのエネルギー伝達が低くなり「ボール初速がダウン」してしまうケースが挙げられます。
ですが、ここで一度考えてみてください。「アーリーリリース=スイングエラー」と一概に言っていいのでしょうか?
先に述べたように、ドライバーのヘッドスピードが50近いプロが、10度のハンドファーストで7番アイアンを打つとします。果たして、ヘッドスピード43の平均的なアマチュアゴルファーにも同じ量のハンドファーストが必要でしょうか。私は、必要ないと思います。せいぜい3度から5度のハンドファーストで十分です。
では、さらにスイングが遅い、ドライバーのヘッドスピードが35程度の女性ゴルファーの場合、ハンドファーストで打つこと自体に意味があるのでしょうか?これも、私は意味がないと思います。低いボールを打つときを除き、通常のショットでは、見た目がハンドファーストである必要はないと考えます。(バーチカルギアエフェクトも作用するため)
ヘッドスピードを基準に算出した適正なハンドファーストがあれば、タメが大きすぎるのも、少なすぎるのも問題です。皆さんはどう思いますか?
アーリーリリースがスイングを上手くまとめてくれることも
アーリーリリースが実際にパフォーマンスを支えているゴルファーが多いのも事実です。特に女子ジュニアのスイングを見ているとよく分かります。
女子ジュニアによく見られるのは、ダウンスイングで身体全体(マス)を大きく左にスライドさせるスイングです。彼女たちは、身体を左に横移動しながら打つため、タメを維持したままスイングをすると、クラブが上から刺さってしまう可能性が高いです。ヘッドスピードがあまり出ないのに、ダウンブローが強すぎると、ボールは十分に飛びません。しかし、ここで少しヘッドをアーリーリリースさせると、インパクト時の入射角などが改善され、結果としてうまく球を打つことができます。
このようなスイングをしているジュニアゴルファーでも、スクラッチプレーヤーが多く見られます。アーリーリリースをしていても、その実力は確かなものです。もし本人たちがショットのクオリティーや飛距離、怪我などに悩んでいないのであれば、その動きをスイングエラーと見なす必要はないのではないでしょうか?
ゴルファーのスキルレベルや目指している目標、求めるスコア、スイングの見た目、打ちたい球の種類によって、その動きが「助け」となるか「妨げ」となるかは変わってきます。スイングの一部だけを切り取って「良い動き」「悪い動き」と判断することはできないのです。
▍おわりに
ゴルフスイングでタメを大きくすれば、必ずしも誰でもスイングスピードが速くなるわけではありません。いくつかの条件下でタメを適切に使うことができれば、スイングスピードが増加し、飛距離を伸ばすことができるのです。
最後までお読みいただきありがとうございました!
続きはこちらから
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?