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地下鉄あるいは平行世界


よく利用する路線は、郊外から都心に向かう電車である。半分から先が地下鉄だ。地下鉄に入ったとたん、平行世界の住人めいた人が乗り込んでくる。

たとえば、袖が昔見たロックスターのようにびらびらしていて、その袖の先一本一本に蛍光テープを貼り付けている妙齢の女性。

たとえば、緑の髪をモヒカンにして、後ろの毛を肩あたりまで伸ばし、その毛をくるくる指に巻き付けながら鼻歌を歌っている男性。

電車が渋谷を過ぎ、表参道を越え、ピンヒールでさっそうと歩く女性や、ノートパソコンを抱えて難しい顔をしたスーツ姿のサラリーマンが次々と降りていくと、あたりは所在ない感じのひとばかりだ。そんな頃合いを見計らって、彼らは姿を現す。

魔女のような真っ黒なローブに身を包んだ三人組の老婆を見たのも、70年代から先ほどタイムスリップしてきたばかりのようなツインテールの三十代女性に出会ったのも、昼日中の地下鉄である。

おそらくそれは、わたしの視界が彼らをとらえやすくなるだけなのだろう。つまりは、昼間の地下鉄でだけ、とたんに異彩を放って見える人々がいるということだ。「平凡」とか「普通」とかからちょびっとだけ逸脱した人々。蛍光テープの婦人も、モヒカンの彼も、しかるべき場所ではごく一般的なのだ。たぶん。わたしのしらない場所では。このまま電車に乗り続けていればたどり着くのだ。たぶん。

唯一、ツインテールの彼女に関しては、信じられないほど首を伸ばして隣の男性のスマートフォンを凝視していたので、本当にタイムスリップしてきたのではないかと疑っている。


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あやぽ
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