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アリスとアラジン

1.アリスとアラジン

穴があくほど見つめる、という表現があるが、幼少期わたしはアリスとアラジンの虜だった。

普段温厚で聖母のような母が、「またそれ観るの?!」と悲鳴じみた声を上げるほどに。

アリス。
オープニングから不穏なのがたまらない。
のびやかすぎる歌声が、逆に呪文にしか思えない。
始まったと思ったら虫の羽音。
洋服をうさぎが現れたにも関わらず、「パーティーかもしれないわ!」とノコノコついていくアリス。
不穏すぎる。たまらない。
裁判より先は不穏すぎて、いつも途中で止めていた。

アラジン。
オープニングが大好きだった。
登場人物が!自分に!話しかけて!くるだなんて!
あのカメラワークに合わせて歩いたり首を振ったりしたのはわたしだけだろうか。
これもまた、ジャファーが強くなりすぎるところが怖くて途中で止めていた。

擦り切れるほど、という表現があるが、最終的には本当にビデオが擦り切れてしまって観られなくなった。

後年、母が「ビデオが壊れてくれて安心した」と語っていたので、不穏な気持ちになっていたのはどうやらわたしだけではなかったようである。

2.アリスとアラジンとわたし

高校生の頃、吹奏楽部に所属していた。
代替わりのコンサートでは曲に合わせた小芝居をするのが部の慣例で、わたしの代はアラジンを演奏することになった。
結果、わたしは「アヤジン」となり、部長で主役で台本担当という、今考えると赤っ恥そのものの劇を演じ切った。

また、別の機会には「不思議の国のアヤス」という小話を書き、部員全員を登場させて身内でキャッキャとはしゃいでいたのだが、これまた今読むと目眩がするほど自意識過剰な文体で、赤っ恥を通り越して青い顔になる。

そのどちらにおいてもわたしはおかしな登場人物にふりまわされる主人公として配置されていたが、どう考えても自分が美味しい位置を持っていこうという下心が見え見えだ。

脳内がワンダーランドだった頃の思い出である。


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あやぽ
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