あなたのことをもっと知りたい
家族は両親とダックスが1匹。実家暮らし。
今はマンション住まいだけれど、大学2年生頃までは近くの一軒家に住んでいた。
家は祖母の土地のため、とりあえずはそのまま家を建てっぱなしにしている。
残しておきたいものは置いたままで、たまに、必要になったものを取りに行ったり、また、もう必要なくなったけれど残しておきたいものをマンションから持って行ったりすることがある。
今日は、母が家に食器を取りに行くというので、散歩がてらついて行った。
玄関には、部活で使っていたテニスシューズ、
リビングには、大学3年生の夏に天国に行ってしまった愛犬のゲージ、
自分の部屋には、幼稚園の可愛らしいかごバッグや、友達との交換日記。
ひとつひとつにそっと触れながら、少しだけ想い出を引き出しては、また大切にしまっておいた。
中には切ないものもあるけれど、日常のことも、非日常のことも、その時々の出来事や感情を思い出しては愛おしくなった。
ああ、生きてきた軌跡が ”ここ” にある。
そう思うと、どこか安心できた。
同じ様に他の部屋も見て行くと、絵本の本棚に少し厚めのノートを見つけた。
絵柄で母の学生時代の品だと分かる。
聞くと、趣味でギターを弾いていた中高生の頃に、お気に入りの歌や、自作の歌を書き留めていたものらしい。
母にもそんな一面があったのか、と思うと同時に、4分の1もしない所で飽きた様子が伺えるのも、それを何となく捨てれずに何十年と置いてあるのも、なんとも母らしいと思った。
一言「読んでもいい?」と声をかけてからノートを開いた。
まじまじと読まれるのも嫌だろうから、さらっと、でも出来るだけ多くを汲み取れる様に読んでいった。
内容はほとんどが恋のモヤモヤで、当時の心がありありと伝わってきた。
中高の6年間を女子校で過ごした私にとっては、新鮮で、大人びて見えた。
「持って帰らないの?持って帰ったらいいのに。」
本当は、持って帰って自分がじっくり読んでみたかったけれど、部屋が片付いてからにするんだそう。(母は片付けが大の苦手)
予想はしていたけれど、少し残念。
でも、なんというか、
人生の一部を垣間見れた様な気がして嬉しかった。
当たり前だけれど、私は「お母さん」の母しか知らない。そもそも、人である以前に「お母さん」を求めすぎた所がある。とても酷で、申し訳なくもなるけれど、おそらくこれは事実だ。
母は「お母さん」じゃなくて一人の「人」なんだ。
文字にするととても怖いことを言っているなと自覚するけれど、そう実感した。
自戒のためにここにも残しておこうと思う。
家からの帰り道は、少し優しい気分だった。
今一緒に歩いている「お母さん」は、彼女だけの特別な人生を歩んできた人。
とびきり嬉しいことも、深く傷ついたこともあったんだろうな。
まぁもちろん全人類そうなんだけれど、そんなことを考えながら歩いていた。
私は人の話を聴くことが好きだ。
元々話すことが苦手だったというのもあるけれど、話を聴く中で、その人の人となりをもっとよく知れる様な気がするからだ。
どんな人生を歩み、どんな想いをしてきて、今のその人があるのか。
そして、その人は今何を感じ、何が辛くて、何が幸せで生きているのか。
これからどう生きていきたいのか。
それらを知るたびに、相手への愛が深まっていく気がする。
だから、あなたのことをもっと知りたい。
〜今日はここまで。多分、つづく。〜