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やさしい味
私が働いている生活介護施設「一から百まで堂」では、毎日昼食を手作りしています。
専属の調理員がいるわけではなく、三人の女性職員が中心となって、職員を含めた約20人分の昼食を作っています。
調理は職員だけで作るのではなく、利用者も一緒になって、野菜を切ったりしてお手伝いをしています。
だから、スガちゃんはネギが苦手、ようちゃんはカレーとご飯は別皿で、などの細かい好みにも対応できます。
(一から百まで堂では、職員や利用者全てがチャン付けで呼びあいます。これまで利用者には、さん付けで呼ぶように指導されていたので、これまたショッキングでした)
みんなで昼食を作って食べる。私がこの施設に再就職した理由のひとつです。
仕出し弁当などを昼食として提供する施設も多くあるとは思いますが、職員や利用者が一緒になって自分達のごはんを作る事業所はあまりないと思います。
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20人分、約150個
利用者も一緒になってごはんを作る。
それぞれの能力に合わせて、野菜を刻む。味噌汁の味噌を溶かす。味見の時だけ顔を出す。
みんなが調理をしている近くで見ているだけの人もいます。そんな感じでみんなが参加してご飯作りをしています。
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食材は決して高価なものはありません。スーパーのチラシを見て、「今日はここの水菜が安い」などと職員が 指示し、買い出しも利用者と一緒に行きます。
冷凍食品などは使わないので、給食担当の女性職員は毎日、頭をひねって美味しい食事を提供してくれます。
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限られた予算の中でやりくりするのは大変だろうと思い、私もたまには売れ残りの野菜や食べきれないものを持って行くことがあります。みんなに食べてもらえれば、野菜も嬉しいでしょう。
そんなある日、女性職員から「ヤマチャン(私のこと)の野菜って優しい味がするね」と何気なく言われました。
うれしくなって、家に帰るとすぐに妻に伝えました。
「最高の褒め言葉!」と妻もうれしそうです。
そうなんです。
美味しい、甘い、味が濃いetc.
野菜を食べた感想を伝えてくれる方もたくさんいますが、私たちにとっての最高の褒め言葉は「優しい味」なんです。
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障害児の施設で働いていたとき、イライラしたりする子どもたちを見ていて、食の大事さを痛感しました。
愛情のこもった食事。
甘い、辛い、濃い、薄い。いろんな味があるけれど、愛情いっぱいの食事に勝るものはないんです。
その意味では、一から百まで堂の毎日の食事は、最高に「やさしい味」です。