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恋は魔術師

ファリャは1907年から1914年までパリで暮らした。実り多いパリ生活だったが、第一次大戦の戦禍を逃れるためファリャはうしろ髪ひかれる思いでスペインに帰国した。スペインは中立だったため、ファリャは落ち着いて創作に没頭できた。
そんな中、帰国したばかりのファリャに作曲の依頼が舞い込む。これが「恋は魔術師」のきっかけになる
劇作家マルチネス・シエッラとフラメンコの名手・パストーラ・インペリオからの依頼だった。


パストーラ・インペリオ(1911)

パストーラはスペイン定住のジプシー(いわゆるヒターノ)の一族の出だった。ファリャはシエッラに連れられてパストーラの家に行ってスペインのジプシーについて取材し、その音楽やフラメンコに身近に接してノートを取った。パストーラ家はみんなフラメンコの名手だった。元々フラメンコに興味のあったファリャは「ヒターノ」の文化やフラメンコにすっかり魅せられ、のめり込んでゆく。
シエッラはパストーラの母のラ・メホラーナから聞いた話を元にして「ヒタネリア(ヒターノ気質)Gitanería」という台本を書き上げた。編成はオーケストラではなく室内アンサンブルだった。独唱と8重奏(フルート1、オーボエ1、ホルン1、トランペット1、ピアノ、ヴィオラ1、チェロ1、コントラバス1)独唱はメゾ・ソプラノ、フラメンコの歌手によって歌われる。そのスタイルはオペレッタやミュージカルに近いが、むしろ日本の軽演劇や浅草オペラのフラメンコ版のようなものをイメージした方がいいかもしれない。ファリャは一気呵成に作曲した。初演は1915年ララ劇場でパストーラ家総出演で行われた。これが「恋は魔術師」の原型になった「ヒターノ」である。初演はパストーラ一家の出演もあって満員だったが、全体としては失敗だった。これは台本に大きな原因があったのではないかと言われている。ヒターノたちはこの作品のファリャの音楽を「ヒターノの音楽」として認めてくれた。ファリャは失敗にめげず「ヒタネリア」の改良を図り始める。八重奏だった器楽は補強されて、オーケストラの格好になった。弦楽五部(Vn1,2/Va/Vc/Cb)、フルート2(ピッコロ)、オーボエ、クラリネット2、ファゴット1、ホルン2、トランペット2、ピアノ、ティンパニ、鐘。この編成の「ヒタネリア」は1916年にホテル・リッツで演奏され、大成功を収めた。これに勇気を得たファリャは更に改良を加えて、本格的なバレエ作品にすることを決心する。タイトルは「El amor brujo〜 恋は魔術師」に改められた。1916年にはバレエリュスの「三角帽子」や「ペドロ親方の人形芝居」(1919/22)など他の仕事もあったので時間はかかったが、それでもバレエ「恋は魔術師」は1925年にパリで初演された。大成功だった。
観客は熱狂し、「火祭りの踊り」はアンコールされた。

「恋は魔術師」はタイトルだけ見るとちょっとラブコメっぽくも見えるが、実はオカルト要素も入った凄まじい愛憎の物語なのだ。美しい未亡人の恋。それに嫉妬して現れる亡夫の幽霊。
この作品にはコメディの要素が入り込む余地は一切ない。

有名な「火祭りの踊り」は火を囲んで踊る悪魔祓いの儀式。テーマのメロディはサクラモンテの実際の儀式で用いられたメロディに由来している。実はけっこうヤバい音楽なのだ。

最近ではフラメンコ歌唱による演奏も増えている。


クラシカルな歌唱もいいけど、
フラメンコもまた素敵だ
👇はマリナ・エレディアの歌唱

狐火の歌(Canción del fuego fatuo)
クラシカルな歌唱はこんな感じ→Canción del fuego fátuo

悩ましい愛の歌(Canción del amor dolido)
クラシカルの歌唱は→Canción del amor dolido

フィナーレ暁の鐘(Final. Las campanas del amanecer)
クラシカルの歌唱は→Final. Las campanas del amanecer

おれはクラシカルの歌唱では👆で例に挙げたテレサ・ベルガンサが圧倒的に素晴らしいと思ってる。

ちなみに👇はマリナ・エレディアのライブの模様
かっこいい!


余談:映画「恋は魔術師」(1986)


カルロス・サウラ監督がフラメンコのアントニオ・ガデス舞踏団と協力して作った作品。「カルメン」「血の婚礼」に続くフラメンコ三部作の第三作。

https://youtu.be/Qy_4DCqvsEU?si=KA6gkC24YhQkzscU

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「カルメン」(1983)
おれはサウラ監督のフラメンコ三部作で一番好きなのは第一作の「カルメン」(1983)だ。アントニオ・ガデス舞踏団の舞台「カルメン」の製作の過程が「カルメン」の物語と重なって入り混じってゆく作品。素晴らしいです。ぜひ!👇



https://youtu.be/7T4UjUOT8YI?si=4fPV3mOKRq0Bv0G7

👆の二つの動画はビゼーの音楽がフラメンコギターの名手パコ・デ・ルシアによってどんどんフラメンコになってゆくスリリングなシーン。ゾクゾクする。

👆はパコ・デ・ルシアの「火祭りの踊り」。かっこいい!

👆パコ・デ・ルシアの三角帽子も凄い!

カルロスサウラとアントニオ・ガデス舞踏団の「カルメン」の舞台版はこんな感じ👇



チュス・グティエレス監督のドキュメンタリー映画「サクロモンテの丘 ロマの洞窟フラメンコ」(2017)も非常に参考になる映画だと思う。ぜひ!






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