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2023.9 | 金属のメタルの温度を知りたくて。

9月は書けることがいっぱいある(安堵)。しかし、わたしはどうしても書きたい出来事が1つあるため、まずはその1つに集中して書くことにする。わたしの17年にわたる感覚や価値観の醸成にかかわる一区切りとなる出来事だったため、自己満に書き進める。どうか「こんな人もいるんだな、人間ってオモシロ」と思ってくれそうな方だけお読みください。

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本来7月に予約していく予定だった湖沿いのペンション。災害級の大雨によって突如中止になったりしながら、2回のキャンセルを経てようやく行くことができた。「一つの場所に泊まるのってこんなに大変だったっけ!?」と思いながら、宿の方に何度も謝りながらついに当日。部屋でパートナーと缶ビールの蓋を開けて、いつものように「何に乾杯する?」と無茶振りをしたら「あなたの夢に?」と。(まってくれ…そんなつまらないキザなこと言うような人間じゃないよな…?)とフリーズしていたら、「え、だってあなた、ここにくるのずっと夢だったでしょう!?」と。ああ、そうだった。予約&豪雨&キャンセルの繰り返しに疲れ果てて忘れていたけれど、この旅は私の中で結構重要な役割を果たしているんだったと思い出す。

この話をフルで語るには2006年、わたしが小6の頃まで遡る。そして自分の中で、自分の生きる指標や感覚の形成の中でシンボル的な存在、それがこの湖とペンションなのである。

この話は書いたところで本当に人の役に立たないし、自分で話しておきながら小っ恥ずかしい話なのだが、とはいえ書いておくと自分のためになるのでここにひっそりと置いておこうと思う。

11歳、湖のペンションと「musicream」に出会う。

「サウンズグッド!」は、B&B(Bed&Breakfast)を通り越して
B&B&B&B(Bed&Breakfast&Bar&Band)とのこと。笑

うちの家族は、わたしが小さな頃には既にキャンプにいく習慣があり、当たり前のように夏にはいろんな場所にキャンプに行った。そのうちの1つが秋田県大仙市の田沢湖だった。なんとなく、ここが一番印象に残っている。そして、わたしが小6の夏には湖畔のペンションにカフェが併設したような「サウンズグッド!」にも訪れた。確かそこでかかっていた音楽が気になった(おそらく)うちの姉が、お店の奥さんに「この曲はなんですか?」と聞いたんだと思う。それがFried Prideの「musicream」だった。

Fried Prideのボーカルの方のソウルフルな声を聞いて、当時小6のわたしは絶対に黒人の豊満バディ美女だと思い込んでいた。しっかり色白の日本人で驚いたことを今でも覚えている。「musicream」はカバーアルバムで、聞いたことのある有名な曲を彼女らテイストに仕立て直したもの。多感な時期のわたしにとって、その出会いは彼女らの曲に夏の代名詞をがっつり与えることとなった。

大人になれば分かる感情、それが分かる日が欲しくて。

朝起きて外に出ると湖が目の前にある。
これがこの地域の人には当たり前の景色であり、
わたしたちからすると最高のご褒美である不思議。

「musicream」の収録曲(カバー)であり、わたしの敬愛する井上陽水先生の曲「リバーサイドホテル」は、わたしが人生を生きていく上で一つの地図となった。簡単にいうと「大人になったら分かるもの」を提示されたような気持ちになった。大人になればいろんな感情を知って、嬉しいけど悲しいこととか、寂しいけど温かいこととか、そういうものをたくさん知っていくんだろうなと思った。歌詞の意味はわからなかったけれど、小6の自分にはその意味がよくわからない文字の羅列と気だるげなメロディーラインに「あーよくわかんないけど、大人って楽しいんだろうな」と、言語化せずとも無意識に感じていたんだと思う。「金属のメタル」なんて、頭痛が痛いみたいな日本語の誤用だと誰かが言っていたけど、人のリアルなんてそんなもんでしょ。わたしはその金属のメタルのドアノブを握ったときに、それがどんな温度なのか、どんな気持ちなのか、そういうものを大人しか知らないなら知りたい、と思った。

チェックインなら寝顔を見せるだけ
部屋のドアは 金属のメタルで
洒落たテレビの プラグは抜いてあり
二人きりでも 気持ちは通いあう

井上陽水作詞「リバーサイドホテル」より

27歳、リバーサイドホテル(湖だけど)に一緒にいく人を見つけた。

夜ご飯は2,750円程でオプション。夜でこのお値段なら
まあちょっと控えめかな?なんておもっていたら
しっかりめのフルコースだった。感無量。

今のパートナーと付き合うことになった時、実は今より相手のことが好きではなく(ごめん)、喧嘩をしたり嫌なところもあったりしながらだったため、「理想的なパートナーを見つけた(キラキラ)」という感情ではなかった。

それでも「うまくいくか分からないけれど、付き合ってみるか。この人は時間さえかければいい関係を築けるかもしれない」と思ったのは、わたしの頭の中にある「リバーサイドホテル」の同行者にぴったりだと感じたからである。よく、結婚した夫婦が「出会った瞬間にビビビっときました!」という台詞を聞いたことがあるが、まさにそれに近い。結婚までは考えてなかったが、わたしはこの人に「この人には(わたしの脳内の)リバーサイドホテルが似合う!!!」とビビビっと感じた(なんだそりゃ)。

もちろんそれだけが理由ではないが、わたしにとって理屈抜きで一発で判断できる、とても頼りになる感覚なのである。「わたしはたぶん、この人とリバーサイドホテルにいくんだろうな」という感覚。

…ところで本家の「リバーサイドホテル」は誰と行っているのか。おそらく、シンプルに幸せなカップルではないだろう。終始少し怪しげな雰囲気のなか音楽はすすむし、曲の中には遠回しにセクシーな描写がある。わたしたちには全くといっていいほどそんな怪しげさもセクシーさもないが(それでいいのか?)、それでもいい。わたしが見たい景色を見られればよいのだから。

28歳、ついにリバーサイドホテルに。(湖だってば)

そしてわたしは、ついに"リバーサイドホテル"に到着した。サウンズグッドは素敵なご夫婦が営まれており、チェックインは旦那様が出迎えてくださった。夕食付きで予約したけれど、本当に予約になっているかドキドキしながら名前や住所を書き込み、「ご夕食の時間はどうされますか」と聞かれてホッとする。今時のホテルだとカードキーが増えてきているが、ここではしっかりと長いキーホルダーがついた鍵が手渡された。わたしは今からここでバケーションを過ごすのだ!!とわくわくした。

あとのことは写真にお任せする。(そうなんだ)

外観から気分が上がる。
ロフトベッド。この簡易な感じがいい。
夕食の前菜3種。自家製パンのほか、地元食材たくさん。
朝見るとこんな感じ。

ところで「金属のメタル」の温度とは。

あとのことは時間をおって説明するほどではないので割愛。

部屋のドアのノブはちゃんと金属製だった。(ちゃんと?)
外が暑くて若干熱った手のひらの熱が、ほんの少しドアノブに逃げるか逃げないか…その程度。そう、このときのわたしにとって「金属のメタル」の温度なんてもう関心がなかったのである。

特に意味深い大人の恋愛みたいな感情ではないし、「ベッドの上で魚になる」ようなセクシーな展開もない。私たちはひたすら楽しく酒盛りをしてベッドで大の字で寝た。そんなものなのだよ、11歳の私よ。

大人ってのは、きっと子供の自分にはわからないようないろんな感情や価値観を持っていて、子供には分からない悲しみ、子供にはわからない喜び、子供にはわからない幸せを感じているのだろうと。そこにわたしは希望を抱いて生きてきた。そんなわたしがドアノブに対してこんなに感情がないと聞いたら、11歳のわたしはどう思うだろう。

携帯を持つ前は、手に入ったらどんなストラップを・どんな待ち受けを・どんな着メロをと想像したし(なんだか古い)、大人になったらこういう車にのって〜と想像した。結局、ちょっと楽しんだあとはどうでもよくなる。特別な思いをそうつづかないこともある。

28歳のわたしは、歌の歌詞に思いを馳せて未来に恋焦がれなくなってしまったし、大人の持つ複雑な感情にももう関心がない。globeが描くちょっと不幸な恋愛も興味無くなった。人に嫉妬することもほとんどなくなったけど、「いつかはきっと素敵な人生になる」という無根拠な期待もない。人口減少の一途をたどる日本の未来にも暗い気持ちになっている。

ただ、それでも「まあ明日も生きてもいいか」と思えるし、11歳に戻りたいかと言われれば、戻りたくない。つらいことや暗い気持ちがつきまとっていても、28歳までに築いてきたものは手放す気がない。

結局それくらいの気持ちである。子どもの頃に、何を考えているかわからない大人の横顔に憧れはしたが、とりあえず28歳になった今は「憧れるほどでもないよ、ただ"疲れたなあ"とか"あれやだなあ”とか、そんなことばっかりよ」と笑っている。

大変な激しい世の中だけど、その中で最高な仲間たちとどう生きていくか。彼らはどんなことを感じて変化していくのか。それに影響を受けてわたしはどう変化していくのか。それらを見れるのであれば、明日も続きを歩む気になれなくもない。

というか、もしかしたらどの境地に行っても「あなたが憧れてまで想像するほどのもんでもないよ」と言いそうである。結局、そういうことである。

それでも、「サウンズグッド!」の滞在はとても心地よかった。ご夫婦に歓迎していただく一軒のペンションで、特に派手なことをせず、湖を眺めたりのんびりしたりする。そして素敵なご飯を頂く。この滞在の温度感がいい。11歳のわたしに、この温度感のよさ、なんていったらつたわるかしら。

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