ショートショート『泣いてる15:30』
本日、ハッシュタグで開催された
『ショートショート作家から学ぶ「未来を切り拓く考え方」』の講座にて作成した小説です!
(イベント→https://www.facebook.com/events/1419706788466545/?ref=newsfeed)
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『泣いてる15:30』
「辛い時に我慢をする日本では駄目だ」と総理大臣が言った。
そして日本に「毎日午後3時30分になったら、すべての人は30分間泣くこと」という法律ができた。守らなければ、1回につき500円の罰金を取られる。
馬鹿馬鹿しい。
僕は毎日のその時間を、机に伏してやり過ごしている。泣いているふうであれば、泣いていなくても罰金は取られないからだ。クラスのみんなもそうしている。施行初日には騒ぐ人たちもいたが、その日のうちに全員本当に罰金を払わされたらしく、その30分間だけは大人しくするようになった。
法律自体は愚かだと思うけど、この静かな時間は嫌いではない。一生こうしていられたらいいのに。目を瞑って、頭も心も空っぽにする。
『終了です。泣き止みましょう』
ロボットみたいなアナウンスを合図に、日本中が突然動き出した。
ほんとこれ何なんだろうね。馬鹿らしいよね。教室のあちこちから、お決まりの不満が上がる。ほら、教科書開け、と先生が言う。何事もなかったかのように、授業の続きが始まった。
不意に、背中に小さな衝撃を感じた。
足元を見ると、消しゴムのかけらが落ちていた。ざわめきに身を隠しながら、後ろの方で誰かが笑っている。
気が付かなかったふりをして、ぼろぼろにされた教科書に目を落とす。馬鹿馬鹿しい。