【新○誠パロディ小説】彼氏と彼氏の猫
パロディ元
彼氏と彼氏の猫
季節は春のはじめで、その日は雨だった。
その日、僕は彼女に拾われた。だから僕は彼女の猫だ。
彼女は僕に「くろまる」という名前をくれた。
彼女にはボーイフレンドがいて、二人で暮らしている。たべものをくれるのは彼の方だ。だから彼は僕にほおずりしてもいい。
彼は父親のように優しく、下僕のようにたべものをくれた。
だからすぐに彼のことが好きになった。
毎朝彼女は仕事に出かける。彼は、ずっと家にいる。あたたかいからとりあえず僕は彼の膝に座る。
夜になると彼女と入れ替わりで彼が出かける。朝まで仕事をしているのだろう。彼女は家に帰るとすぐ寝てしまうから遊んでくれない。無価値だ。
夏が来ても僕にはガールフレンドはできない。そんな新海誠作品みたいに都合よくいかない。
彼女に「ビョウイン?」とかいうところに連れて行かれて、気がついたらタマがなくなっていた。
その代わり彼と彼女はうまく行っているらしい。
「ねえ、蒼太」
「なに?茜」
「ケッコンしようよ」
「ねえ、茜、なんども言ってるけどさ、あと5年待ってくれ」
「それ、2年前から数字変わってない」
「今の事業がうまく行ってちゃんと養えるようになってからっていうお前のためを思って俺は言ってるんだよ」
彼と彼女の話は楽しそうだ。ひととおり話し終わると僕はケージに入れられてしまう。
ケージ越しになぜか服を着ていないふたりが見えた。
秋のはじめ、ながいながい喧嘩のあと、彼女が泣いた。
ぽりあもりー?ってなんだろう。彼はぽりあもりーらしい。
「ねえ、くろまる」
彼女は震えた声で僕を呼んだ。呼ばれたからといって返事をするほどの仲ではないので無視した。
そのながいながい喧嘩の3ヶ月後、彼女はいなくなった。
清清しい気分だ。
季節が変わって、今は冬だ。
僕にとってははじめて見るこたつも、ずっと昔から知っているような気がする。
分厚いコートにくるまった彼はまるでおおきな猫みたいにも見える。
さいきん、彼は朝から仕事に出かけるようになった。
僕も、それからたぶん彼も、たべもののことが好きなんだと思う。
完
注:当作品はパロディです。