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原田マハさん好きの読書ノート『ジヴェルニーの食卓』

「この世に生を受けたすべてのものが放つ喜びを愛する人間。それが、アンリ・マティスという芸術家なのです」(うつくしい墓)。「これを、次の印象派展に?」ドガは黙ってうなずいた。「闘いなんだよ。私の。――そして、あの子の」(エトワール)。「ポール・セザンヌは誰にも似ていない。ほんとうに特別なんです。いつか必ず、世間が彼に追いつく日がくる」(タンギー爺さん)。「太陽が、この世界を照らし続ける限り。モネという画家は、描き続けるはずだ。呼吸し、命に満ちあふれる風景を」(ジヴェルニーの食卓)。モネ、マティス、ドガ、セザンヌ。時に異端視され、時に嘲笑されながらも新時代を切り拓いた四人の美の巨匠たちが、今、鮮やかに蘇る。語り手は、彼らの人生と交わった女性たち。助手、ライバル、画材屋の娘、義理の娘――彼女たちが目にした、美と愛を求める闘いとは。『楽園のカンヴァス』で注目を集める著者が贈る、珠玉のアートストーリー四編。

Amazon概要より

短編集なので、1話ずつ感想を。
※ネタバレありです

『うつくしい墓』

とにかくマティスの作品を観たくなる!
マティスの目を通して描かれた日常の風景を観たい。

マティスの家にあるすべてのものに、そこにある理由があった、という部分の描写が好き。特に以下の描写。

テーブルの上の本は、真ん中よりも少し後ろのページが開けられている。惜しみながら読み進んでいる、読書する人の熱中ぶりが伝わってくるように。もう一冊の本は閉じられ、まもなく開かれる瞬間を待っているようです。

「ジヴェルニーの食卓」P.46

いや~、置いている本に対してこんな意味を見出せることができるのか!とマハさんの感性に感嘆。目に映るものすべてに意味があり、物語があるという見方が新鮮で、こんな見方ができればいつもの日常も楽しくなるなと思った。

そして、マティスの「チェロの響きのような」声がどんな声かとても聴いてみたい。

あと、マティスからマダム宛のお手紙が、なんと粋なこと。
マグノリアの花という表現・・・。おしゃれすぎるやり取りでとても好き。

ちなみに、マグノリアの和名は「モクレン」だそうです。
あらためて見るときれいなお花~。

『エトワール』

エドガー・ドガのお話し。ドガの絵をしっかり観たという記憶がなかったので、ひとまずネットで調べました。
調べた結果、私はドガについて、代表作も知らない無知な人間であると分かったと同時に、新しいことを知れて嬉しくなりました。

最初に、「おっ」と思った描写はここ。

たったいま、とメアリーは感じた。たったいま、自分は、踊り子たちの稽古の場面に立ち会っている。たったいま、踊り子たちのレッスンが始まった。そして、彼女たちはいっせいに足を振り上げた。たったいま。

「ジヴェルニーの食卓」P.106

これまで絵を観て、「たったいま」と感じたことがなかったから、こういう感じ方もあるのかと新たな発見ができて印象的でした。

あとはドガのまなざしの表現で、「燃えるように冷酷なまなざし」という言葉があって、相反する言葉だけど、パッと見た様子は冷酷な雰囲気だけど、内に秘める芸術への熱意は燃え上っているような、そんな風に捉えました。

マハさんの物語には面白い表現がたくさんあって、逐一書き留めておきたくなっちゃうから困る。。

ドガの強い信念と熱い情熱を感じられる物語でした。その熱い情熱は、芸術や印象派の画家たちに対してだけではなく、「14歳の小さな踊り子」のモデルとなったマリー・ファン・ゴーテンを「エトワール」にするためにも注がれていたことがありありと伝わってきた。

その像が売れなかったドガは、どういう気持ちだったんだろう。受け入れられるのか、憤慨するのか、悲しむのか、、彼はこの事実をどう感じたのかがとても気になる。

ドガの14歳の少女をある意味「犠牲」にしてまで芸術に向き合った姿勢と、それに対して違和感を覚えるメアリーの心情の対比も印象的でした。

届かぬ星がある切なさも、痛いほど伝わってきた。

『タンギー爺さん』

タンギー親父くらい、お金や将来を気にせずに芸術を心から楽しむ人生を一度は送ってみたい!(あ、お金を気にせずというのは余裕があるからというわけではなく、お金が無くても芸術があればいいという考え方です)

タンギー親父の家で、若い画家たちが、ワインやチーズを片手に、肩をぶつけ合い、乾杯し、笑い、ひとしきり議論している、その様子を想像するだけでたまらなく楽しそうで・・・。
何かにこんなに熱中して、しかも自分と同じくらいの熱量をもっている人と一緒に語り合うなんて、こんな贅沢な時間の使い方ないよなぁと。

「タンギー爺さん」はゴッホの描いた絵で、調べてみたら背景の浮世絵やタンギー爺さん自身の色使いがとっても素敵で、大好きな絵になりました!
気になる方はぜひ調べてみてください。たくさんの色が使われていて、日本の要素があるのも嬉しいし、タンギー爺さんの表情から優しさが伝わってきて、素敵な絵です。

『ジヴェルニーの食卓』

最後はモネの物語。

まだ幼かったブランシュがモネの絵に強烈に魅了されていく様子がありありと伝わってきました。私もモネの「アトリエ」(青空の下)に一緒についていきたい。

目覚めて、呼吸をして、いま、生きている世界。この世界をあまねく満たす光と影。そのすべてを、カンヴァスの上に写しとるんだ。

「ジヴェルニーの食卓」P.217-218

太陽の光が差し込まない暗い部屋で絵を描くのではなくて、太陽の光で満ち溢れていて目の前に自然が広がっている風景を目の前に絵を描くという、モネの風景画への向き合い方がとても好き。

あと、書き残しておきたいと思った描写はこれ。

ブランシュは、夜明けまえ、いつも通りに鎧戸を開けた。東の空は、溶けかけた桃のシャーベットのように、ほんのりばら色に染まっていた。

「ジヴェルニーの食卓」P.257

なんて素敵な色の例えなんだ・・・と、この表現を読んで思わずうっとりしてしまった。(文章を読んでうっとりするなんて、あんまり経験ない)

きれいな朝焼けや夕焼けは何度も見てきたけど、あの色を「溶けかけた桃のシャーベットのよう」とは感じたこともなければ、何かに例えて表現するなんていう発想にも至ったことがなかった。

きれいな空を見たときは、「あ~きれいだな~」ってぼんやりと眺めてたけど、これからはこのきれいな色を誰かに伝えるとしたら何に例えて表現するだろう?って考えて見るのも面白いかも。

総じて

すべて美術史をもとに書かれたフィクションだけど、巻末の解説にも書かれていた通り、ノンフィクションのように、登場する人物たちが本当に存在したかのように書かれていたのが印象的。

物語を通して、マハさんがそれぞれの巨匠たちをどう見ているのかがわかるのが面白かった!

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