160831 はえぎわ『其処馬鹿と泣く』@イマジンスタジオ
劇団「はえぎわ」本公演『其処馬鹿と泣く』(そこばかとなく)、観劇してきました。
イマジンスタジオは有楽町駅から歩いてすぐ、帝国劇場のひとつ隣の通りにある、ニッポン放送地下のスタジオです。
そう、【スタジオ】なんです。【劇場】じゃないんです。
普段ではラジオの公開生放送で使われるようで、スタジオなので備え付けのステージや客席、緞帳も袖もありません。
スタジオの大体半分が手作りの客席です。ひな壇を積み重ねて、椅子を並べ置く。
出入り口の扉はひとつしかなく(奥にもう一つあるのですが、セットの関係で客の出入りはスタジオ手前の扉ひとつだけです)、なんと演者の出入りもその扉を使います。なので、劇中トイレに立つことはほぼ不可能です。
袖の代わりにカラフルな簾のような大小の糸が天井から足元まで長く垂れ下がっています。しかもそれはただ袖の代わりをしているだけではなく、劇中にも「糸」は大事なメッセージとして使用されているのです。
席も指定ではなく、自由席。私が入った公演は平日昼公演だったのですが、10分前に到着したらほぼ埋まっていて、スタジオ入口には当日券待ちの方がいらっしゃいました。
チケット代は、当日4000円、前売り3500円。客席数はスタジオHPによると150席だそうです。(公演のものとは異なるやもしれません)
上演時間は95分。幕間はありません。
パンフレットやチラシは座席にひとセット、むき出しに置いてあります。
公演の説明書きは、A4モノクロコピーした普通紙を半分に折りたたんで、タイトル、ご挨拶、登場人物紹介と提供、出演者の今後の予定、と全部で4ページです。
登場人物紹介は実にシンプルで、どの人物にも名前がありません。女、男、女が訪れた家の男……といった書かれ方をしています。登場人物は、全員合わせて11人です。
客席が満席になり、一番前の席の下にはなにも乗っていないひな壇がひとつ置いてあり、最後に入ってきた数人はそのひな壇の上に直座りしていました。超最前列。
先程も述べたように、スタジオなので、一番前の客席と演者が立ちお芝居をするスペースに明確な段差も仕切りも境界もありません。地続きです。
時間が来るとはじめに関係者の方からの説明があり、暗転。本編が始まります。
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明かりが点くと、女が一人、立っています。上はシンプルな白いトップス、それにカラフルなスカートを合わせているのですが、丈が異様に短い。ワカメちゃんばりに、短い。前から見てもパンツがちょっと見えてます。
スカートの裾からは目で認識できる太さの糸が、さっきまで観客が入ってきていた扉の外に向かって伸びています。
すると、扉の向こうから自転車に乗った男が、サドルに座ったまま後ろ向きでスタジオの中に入ってきます。糸は、男の自転車に繋がっていました。男の自転車のベルに、女のスカートの糸が絡まって、気付かずにいた男が走って行ってしまったので、女のスカートはパンツが見えるくらいにまで解れてしまっていたのです。
事の次第に気付いた男が、ひたすら女に謝罪を述べ、しまいには自分のズボンを脱いで女に履いて貰おうとします。「女の子がこのままじゃあれなんで俺のズボン履いてください」「えっいいですそんな、あなたがパンツになってしまうじゃないですか!」「君は今の時点でパンツ見えてるから!」「そんな、あなたに悪いです!」「頼むから履いてくれ!!」
そんなコミカルなやりとりを経て、男と女は恋に落ちます。一目惚れです。ちゅっちゅっと何回もキスをします。道端で。出会ったばかりで、お互いの名前も素性も知らないのに。
男女の後ろの壁には実は幕があって、二人の世界に入り込んでひたすらいちゃいちゃする男女の後ろで、するすると幕が上がっていきます。
幕の向こうはスタジオの壁、ガラスで出来ていて、向こう側が透けて見えます。ガラスの向こうの、まるでデパートのショーケースの中にいるマネキンのように、それぞれ異なった年齢背格好の男女が、ガラス越しに二人の様子をじっと見つめていました―――。
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そんな風に本編は始まります。
序盤の時点でね、もうほんといろんなことが、すーーーごい絶妙なんですよ!!
まず、明かりが点くとパンツ半見えの女が一人で呆然と立ち尽くしているんです。「あっこわい!私にこの規模の演劇はまだ早かったかもしれない!!」と開始5秒で来てしまったことを後悔したんですけど、男が入ってきて、ベルに糸が繋がってるのを見て、「あーなるほど、これは不慮の事故か!」とここでほっと息を吐けました。冒頭初っ端性的なものから始まるのかと思って怖かったですね!違ったー!
幕が開くとそこは一面ガラスで、向こう側が透けて見える――スタジオをラジオの公開録音で使うときは、そのガラスの向こうに観覧のお客さんがいるんだと思います。スタジオの中を、外から眺められるような作り。本来の用途として使うと、出演者はスタジオの中、観客は外から中を眺める形になるんですね。
ガラスの向こう側の壁の背景は一面ピンクのお花になっています。ピンクのお花たちを背景に、後々の登場人物が、ショーケースの中のマネキンのように、そこに立ち並んでいます。
舞台美術が資生堂でアートディレクターをされている成田九さんなんですけど、そのお花を見た瞬間合点がいきました。
この三つのステージの関係がすごい面白くって!客席とステージはなんにも区切られてないのに、ステージの奥のもう一つのステージとの間は、透明のガラスによって前後二つに区切られているんです。
(スタジオ内)客席、ステージ、|(ガラスの壁)|裏ステージ(スタジオ外)
客席とメイン舞台は地続きで床が繋がってるのに、もう一つの舞台はガラスで隔てられたスタジオの外にあるんです。客席側から二つのステージを観ているのはもちろん、スタジオ外の人物たちもまた、ガラスで隔てられた世界の外側から、スタジオ内を眺める「観客」にもなるんです。
この分け方は別にただおしゃれだから分けているのではなく、ストーリーが進むにつれてわかってくる登場人物の関係とも関わってくるんですね。
普通の劇場だったらこんな分割の仕方は出来ないと思うので、スタジオならではの使い方だなあとおもいました。
『ボクの穴、彼の穴。』で、布一枚で穴の中にも穴の外にも星空にも見せてくれた、ノゾエさんらしい演出で感動しました。
大きな装置とか、現実世界を忠実に再現したようなセットはほぼなくて、照明と演者の演技と小物だけで、場面の違いがちゃんとわかってしまうのがすごいです。ものすごくシンプルなのに、発想が画期的で、奇を衒っただけではなく作品のメッセージとも深く関わっていて、もうねーとにかくすごいんですよ!!
話としては、運命的に出会った二人が、ひょんな不運から困難に巻き込まれ、周りの人物に邪魔されたり励まされたりしながら、お互いの「縁」を繋ぎ止めようと頑張るお話、です。
こうやって書くとめちゃくちゃシンプルで王道なんですけど、人が死んだり家族が狂ってたり刺されたりとまあ、結構ドロドロします(笑)。
現実と幻想、幸せと不幸の「糸」がごちゃごちゃこんがらがって、その縺れ方も解け方も、見ていてゾクゾクするんです。ロマンティックと不謹慎が同居していたりも。
小説やドラマや映画ではだめ、舞台の演劇じゃないと作れない世界でした。
演劇って、すごい。
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