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( )topia

ディストピアなんてむずかしいことばをつかっても、世界は何も変わらないしかわったのはぼくかもしれないし。でも案外、宇宙人が地球を侵攻してくるとかどこかの国がミサイルを発射するとかそういうことより友達の左手の薬指の付け根に切れ目のようなものがあって友達のことがほんとうに人間かどうかわからなくなった、みたいなことのほうがね、案外。そういう世界があったってぼくはぼくなんだけど。ユートピアを作る前にぼくはあったかい白ご飯に産みたての命をのせて血液をぶちまけて喉の奥にかきこみたいんだよ。人間の血肉になるようなそんな禁忌のような天使がだいすきだ。友達がいっぽんだけ指を残して消えたこの世界こそが、ぼくがぼくたらしめるこの、この世界こそが、愛しきこの世界こそが、案外。ぼくのことを好きになってくれて有難うなんて言って、インターネットを全部破壊したらぼくは動脈のカーテンの向こうに行ってみようと思うよ。君との愛の交わりが、この先も見つかるといいんだけどさ。愛しくて穢らわしい、そのあたたかいうみの向こうに。


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