胸元には青いアネモネのアップリケ
くしゃっとした加工のかかった綿麻の生地を買った。でこぼこした肌触りと柔らかさが気に入った。たくさんあった色の中から、深い紺色を選んだ。イメージしたのは、いつかテレビでみた染色職人。服や指先、爪の間までを真っ青に染めながら、繰り返す作業に向き合う彼らはかっこよかった。
型紙のいらない割烹着の作り方を見ながら、一枚の布を形にしていく。2メートルを超える生地を裁断するのは、難しかった。ずれないように慎重に、毎日使っても壊れないように丁寧に。作り方の動画を少し進めて、止めて、少し戻してを繰り返す。ばらばらだったパーツが一つにまとまっていく。お気に入りの割烹着をなかなか探し出せなくて、それなら作ってしまおうと勢いまかせに生地を買ったが、久しぶりの裁縫はとても楽しかった。一定を刻むミシンの音を聞きながら、何時間でも集中できた。
胸元には青いアネモネのアップリケをつけた。つやのある糸で縫い取られたアネモネは生地の色とよくあった。調べてみた花言葉は、「固い誓い」。胸元を飾るのにちょうどいいと思った。
時間をかけて作った割烹着には、腕を通したときから愛着がわいた。新しいけれど、どこかくったりした雰囲気は使い込まれた感じがあった。料理でも、掃除でも、園芸でも、これで袖を汚さずに作業ができる。お気に入りを自分の手で作ることができた満足感があった。
私はこれを着て、丁寧な仕事をしよう。たとえそれがどんなに些細な「家の事」であったとしても。日常を彩る職人となるのだ。
〈参考〉