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独断偏見音楽談義番外編・はるまきごはん個展@しろがねGallery / 【はるまきごはん十年展「わたしたちの足跡」 】について語るよ!

11月20日。私が個展の会場を訪れたその日は、ぐっと気温が下がって冷たい雨が細かく降る午後で、ちょうどあたたかいスープや紅茶が恋しくなる冬の空気をまとっていた。
三鷹駅の南口を出てまっすぐ歩き、大通りから小道を左折したところにある、白いコンクリートの建物はひっそりと佇んでいる。これが今回のはるまきごはん十年展「わたしたちの足跡」(以下・『わたしたちの足跡』展と表記)が開催されている会場だ。

今回のレポは、『わたしたちの足跡』展の感想をつらつらと主観的に述べるものにしていこうと思う。


はるまきごはん十年展「わたしたちの足跡」って?

はるまきごはん十年展「わたしたちの足跡」は、はるまきごはんさんの活動10周年を記念して開催された個展だ。今年2024年は、はるまきごはんさんがインターネット上で活動を始めて10年の記念すべき年であり、この展示以外にもベスト盤アルバム『おとぎの銀河団』の発売や、ライブ『ハンドメイドギンガFinal-新しい旅-』の開催など、お祝いイヤーを盛り上げる様々な企画がなされている。

主な展示内容は、これまでの活動10年の間に生み出された楽曲MVのワンシーンやキャラクターの表情を切り取ったイラスト、昨年12月に大阪で開催された『拡張される音楽』で展示されていた作品『聴心』、「はるまきごはん」として活動を始める前の幼少期の作品など。
個人的に特に印象の残ったのが『聴心』の展示だ。後ほど詳細に書こうと思っているが、これは見るだけでなく実際に見学者が手元で音を操作し、作品から流れる音を聴いて楽しめる作品で、耳からはるまきごはんさんの世界に浸れる魅力的な作品となっている。

このように、活動を総括し振り返るとともに、はるまきごはんさんの描く世界観に思いっきり浸れる展示だった。

見て、聴いて、触れて。はるまきごはんさんの世界に浸る

少年時代に描いた「ザリガニ」と「雪」に見る、情景描写の片鱗

ここからは印象に残った展示についてつらつらと感想を述べられれば、と思う。
展示作品は活動の時系列順に展示されていて、冒頭に展示されているのは「はるまきごはん」として活動を始める前、特に幼少期の頃の作品たちである。ザリガニや虫、生きものたちを登場人物に扱った漫画やイラストが展示されていて可愛らしい。はるまきごはん少年が生まれた街・北海道の札幌市の自然環境や、彼の話に何度か出てくる祖母の家の周りの環境が自然に溢れていたのかな、などと想像しながら鑑賞させてもらう。

そのどれもが少年の描いた愛らしい作品ではあるのだが、一枚一枚に目を凝らしてみると、その感性や生きものの形状や描写力に脱帽してしまう。
生きものだけでなく、剣や機械(?)などとメカメカしいものが登場する漫画もあって、それらの立体感……厚みもきちんと描写されており、それは非常に高い観察眼が小学生時点で備わっていることを示す貴重な資料にも思える。思わず見入ってしまった(私自身、絵を描くのは嫌いではないのだけれど、どうもうまく描けず……)。

全作品写真OKだったのでありがたく撮影させてもらったのだが、それらの中で印象に残ったのがこの1枚。

はるまきごはん「少年」が描いた、ザリガニと雪のイラスト。

ザリガニが「雪だー」と腕を広げている様子を描いたものなのだが、デフォルメされたザリガニの可愛らしさに目が行きつつも、目を引かれたのが降りしきる雪の描写だ。点、で描かれた雪が絶え間なく空から降ってくる粉雪を思わせて、のちのはるまきごはんの情景描写の美しさの片鱗を見た気がした。

『メルティランドナイトメア』『幻影』シリーズなど。生み出されたキャラクターたち

少年時代とその後の宙中学高校時代の作品を経て、いよいよデビュー後・2014年以降に発表した作品ゾーンへ。
今年発表された『エンパープル』、シリーズ化されてリリースされた『幻影』シリーズや『ふたりの』シリーズ、『ドリームレス・ドリームス』『コバルトメモリーズ』『メルティランドナイトメア』『セブンティーナ』『スター』といった『夢世界』シリーズのほか、『ラストライト』や『Tender Rain』といった懐かしい楽曲のMVに登場するキャラクターのイラストパネルも展示されていた。

上から『メルティランドナイトメア』、『セブンティーナ』、『アスター』。
上から『ドリームレス・ドリームス』、『コバルトメモリーズ』。

写真を撮ってくればよかった……と少し悔やんでいるのだが、イラストパネル以外にも、『幻影』シリーズ当時に行われた「MAGIC SPICE」とのコラボで発売されたTシャツなど、これまでに制作されたグッズも飾られている。
せっかくなので(?)スープカレーを食べにいった2022年当時の写真を載せてみる。これももう、2年前になるのか……。

コラボで食べたスープカレー。具だくさんで美味しかった記憶。
ラッシーとグッズたち。

実際に聴いて触れる体験型展示作品『聴心』

展示スペースを進んでいった後半に、『聴心』は鎮座していた。鎮座する、という言葉が適切かどうかはわからないが、その言葉を使おうと思うくらいの大きさと存在感がある作品で、その雰囲気に圧倒された人もいるのではないだろうか。

冒頭で少し触れたように、これは展示を見る側が作品に触れて操作し、『聴心』から流れる音を楽しめる体験型の作品になっている。手元には合計9つのレバーがつスープカレーにいた操作盤が置かれており、それに番号が割り振られている。番号は『聴心』の中央に座っている少女の心臓から伸びるスピーカーと連動しており、手元のレバーを操作することで、番号に紐付けられた音楽が流れる仕組みになっている。

『聴心』。手前のレバーで8種類ある音の大小を調節し、聴いて楽しむことができる。

番号に紐付けられた音はそれぞれタイトルも決められている。それがどんなテーマで作られた音であるかは、ぜひ現地に足を運んで確かめてみてほしい。
手元のレバーの傍には、譜面台を思わせる台に本が置いてある。これは『聴心』に座る少女のものと思われる日記のようなつくりになっていて、そこから少女がどんな世界を見て、何を考えていたのかに触れることができる。

少し主旨とずれてしまうが、私ははるまきごはんさんの作る音がとても好きなので、展示作品からも音を聴けたのがすごく嬉しかった。
はるまきごはんさんの作る音をもし言葉で表現するのなら、「繊細で細かいラメがちらちらと光り輝くような音」という印象がある。アイシャドウに含まれている小さなラメのような。特に好きなのが、YouTubeに投稿されている『通り過ぎる影』に使われている音だ。せっかくなのでリンクを貼っておく(言う機会を逃しており、ここに無理矢理ねじ込んでしまったけれど言えて満足した)。
視覚、聴覚、触覚によって少女の見ている世界を追体験する作品であり心象体験装置、それがこの『聴心』であると言えるだろう。

キャラクターを「足跡にしない」

今回の展示のコンセプトというか、はるまきごはんさん自身が大切にしたかったことの一つに、「キャラクターが「足跡」であってほしくない」という願いが込められているそうだ。これは展示スペース冒頭に飾られていたパネルからの引用であり、入場時に貰った「あとがき」の中でも語られていた内容になる。

今回の展示に込めたテーマと、はるまきごはんさんの思いが綴られていた。

私ははるまきごはんさん自身ではないし、何か作品を生み出して発信するクリエイターでもないから、はるまきごはんさんが考えていることを真に正しく理解して受け止められたかどうかはわからない。だから、作品に込めた意図がはるまきごはんさんの思うとおりに私が解釈していない可能性は充分にあって、この章でこれから書くことも的を射ていないかもしれない。

ただ、そういった前提を並べた上でもはっきりとこの展示を通して感じたのは、はるまきごはんさんはこれまでに生み出した作品とキャラクターを大切にし続けている、ということだ。それがたとえ、現在から時間的に見て昔に描いたものであっても。

「新しい楽曲を作り続けることは、新しいキャラクターを作り続けることでもあり、少し間違えれば彼女たち自身を「足跡」にしてしまう気がします」という言葉に感じられたのは、キャラクターたちが過去のものとなってしまう悲しさだ。この展示は、はるまきごはんさんが生み出したキャラクターを過去のものにはしない、「彼女たち」の存在が現在にまで続いている証明であり意思表示の場であったのかもしれない。

はるまきごはんさんと、生み出されたキャラクターたちの物語はこれからも続く。ただ雪の上に残されただけの「足跡」にはならない。その足跡が、ここに在ると誰かに目撃され続ける限り、キャラクターたちの存在は過去にならずにいれる。そういうことかもしれないと思った。

これから先のはるまきごはんさんが作る作品が、どんなものであるかはもちろん楽しみ。でも同時に、これまでに生み出された楽曲とキャラクターたちのことも、ずっとずっと大切に聴き続けていけたらいいなと思う。





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