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【連載小説】『パタイトのテル』4s1w「能力と代償」
空は飛行船でいっぱいだ。下を見ればたくさんの町がキラキラと光っている。
飛行船は墜落していた。状況はどうやら最悪だ。バリアはゆがみ薄くなってきている。砕け散るのも時間の間題だろう。
「アイノウはどこだ」
「近くにいたのは兄ちゃんだけ、多分アイノウは、爆発で別の場所に飛ばされたんだよ」
「探しに行かないと!」
「無理だよ兄ちゃん。守っているだけでもう限界だから」
タハトは地面に拳を打ちつけた。
「何か、何か僕にできることはないか!」
タハトはただ、苦しそうなカミーラを見ていることだけしかできなかった。
「そうだ。あの力、光を出す力があれば、なんとかなるんじゃ!」
すると上からヘリコプターが飛んできて、タハトの思惑もなんのその、バリアはあっさり割られてしまった。そして、カミーラは意識を失った。
「カミーラ!カミーラ!」
耳元に強く打ちつけるような音がして、タハトも意識を失ってしまった。タハトらは、アンギアに到着することができたのだろうか。もしそうだとするなら、ここも彼らにとって、危険な場所であるのだ。ああ、年ゆかぬ少年少女たちは、再び幸せを手に入れられるのだろうか。
*****
タハトの頭にかぶされていた袋を外されると、まぶしくて目を覚ました。
「王の前だぞさっさと起きろ!」
まだ目がくらんでいてしっかりとは見えない。
「よいよい王の前だからと言って清く正しくする必要はないぞ」
(誰だ……おう?)
タハトは思った。
「はぁぁあ、まだー?もういい、水」
その瞬間、大男がたらいの中に入った水を思いっきりタハトにかけた。
「ッハァア!」
「すまんなすまんな。許してチョ。なかなか目が覚めないみたいだったからなァ。ふふふぅ」
そいつは棒読み気味で、どこかを見ながら言った。
おう、そう呼ばれていた男は、豪華に着飾られた金色の王座にずっしりと座っていて、その王が、それは大層太っていて、まんまるな形をしていた。
「さあ、ようこそアンギアへ!」
「アンギア?じゃあ、ここが……!」
「そうだよー」
「は!イヤ、そうだ。カミーラは!」
「あまりのケガだったから医療室だよォ。ふぅ」
「……僕のせいだ。僕が無力だったから」
「大丈夫だよォ~うちの医療は最先端を超えてるからねー。超えてるってのは、ウチらにも仕組みがわからないってことね。ふふぅ」
「生きてる!よかった」
タハトは胸を撫で下ろした。
「そうだ、俺らを捕まえといて、縄も縛らず牢獄にも入れず、ましては医療までしてくれるってのはどういうことなんだ。なにが目的だ」
「ふふぅ、その年でよく頭が回るねぇ、いいことだ。話が早くて助かるよ。ふふふゥ、それはね……」
いきなりこの場の空気が変わり、ずっしりと重たくなる。
「ふ、ふぅ?」
タハトも王のクセを真似して言ってみたりする。
「タハトっちの能力を覚醒させるためだよ!ぷぅ!」
次はいきなり空気が明るくなった。
「ぷぅ?……えぇぇ?!」
「いいおどろっきぷりだね~ふぅ」
「僕には能力がないんじゃ……」
「あるよー!しかもチョー得別なね。んでぇも覚醒がチョー面倒で、しかもその能力の発動条件も面倒。
まぁ、そんなんだから、タハッチは能力が使えてなかったんだよねーふぅ。
まぁ任せてよ、使えるよう覚醒の手伝いをするからさ~ふぅ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、僕の能力は何なんだ」
「聞いちゃう?ふぅ」
「う、うん……能力があるなら、みんなを守れる。もう無能なじゃない」
また空気が変わり重たくなってきた。
「タハッチの能力は……テレグラムニクスって言ってね。相手の強い感情を力に増幅させ発動するんだ。強い感情があれば、なんだって想像できる。まあ、ぶっちゃけ、全ての能力が使えるって感じ?ふぅ」
「ンン?それって……カ、」
「神!!そう、そうなんだよ……神のチカラァ!あぁなんていい響き。一人一人、ちまちまとめんどくさーく能力者を集めて、移植し、我が物にしてきたが……。
もうそんな必要はなくなる。君一人で十分なんだよ!この能力を聞いたとき僕チんはこの地球に降り立った意味を使命を感じたんだ。君が覚醒した暁にはタハッチを殺して能力を奪い取る。そしてボクちんは神となるんだ!」
長々と王は語った。それは実に自分勝手な思想であった。
「何言ってんだおまえ。じぶんかってすぎるだろ!何が神だ!お前は殺人鬼だ。人を自分に移植する?その太った体はそう言うことだったのか!?信じられない、絶対に許せない。お前に取り込まれた子供達をなんとも思わないんだな!黒く濁ったような煙がお前をまとってんだよ!」
「ふッ?!ファ!そうか、そうかそうかそうか」
すると、侮辱したのに、王は喜び始めた。
もう能力は発言していた……いつからだ。いつからそれが見えるようになった」
「なんの話だ!」
「煙の話だ!人にまとわりつくオーラのことだ!」
「オーラ……」
そうタハトは、幼少期頃から人にまとわる気配、オーラ、煙が見えていた。それは相手の心情を表していて、薄暗く濁っているような色合いだと、その人の心も濁っていると言うこと。逆に明るい色ならば明るい心の持ち主なのである。
そのためタハトは人に慣れ、友達作りがとても早かった。
「言ってやるものか。もうお前とはひっとつも喋りたくない。僕が見てきた中でお前は一番どす黒い」
すると王は目を細め、残虐な殺人鬼のような顔になった。どうやらやっとお怒りのようだ。
「っふん。タハっち、残念だよ。アイノウもカミーラもタハッチも可哀そうだな~ふふふぅぅぅ!強制監獄に入れろ。カミーラもだ」
「なに!だめだカミーラは関係ない医療室に寝かしておけ!」
「監獄から出た後はそんなことも感じなくなるから安心しろ。ふぅ」
そしてタハトは監獄に連れて行かれてしまった。
「く、暗い……ここが監獄?」
「いたっ!もっと丁寧にできないの!」
「カミーラ、カミーラか!」
「兄ちゃん?よかった~生きてたんだね」
「カミーラここは、強制監獄っていうらしいんだが、何か知ってることはないか?」
「え、強制……?きょ、きょ、きょう、せいんごく?」
カミーラはそれを聞いた途端ひどく震えだした。
「ど、どうした!」
「いやだ…いやだいやだいやだいやだもう……もういやだ!」
頭を抱えてしゃがみこんでしまった。まだ開始のスイッチは押されてはいない。
「カミーラ、頼む聞いてくれ。カミーラがここに入れられたのも、マイクが捕まったのも、全部全部俺のせいなんだ。ついかっとなってカミーラを巻き込んでしまった。ホントにごめん。僕が弱いばっかりに、頼りにならないやつだから。勝手なのはわかってる。でも協力して一緒に乗り越えてみないか?」
タハトは優しい声で、語りかけた。
「そ、そうとう悪人じゃねぇか。これは罪が重いからな。マイクを取り戻すっていう約束守ってくれよぉ?」
カミーラは恐怖を押し込み勇気を取り戻した。
「うん!」
タハトは目を丸く広げた。しかし、カミーラも人間、植え付けられた恐怖はそう簡単に消えるものではないのだ。
タハトとカミーラは笑った。そしてカミーラは元気を少しずつ出しながらこの強制監獄について教えてくれた。
カミーラが言うには、スイッチを入れられた瞬間広い空間に飛ばされる。そこにはゴールがあってゴールにたどり着くと監獄から出ることができる。
「出られるのか?!」
「でもゴールに向かうまでにある、障害物が邪魔をしているの。ゴールに近づくほどトラップや、障害物は難しくなっていく。また、この監獄は同時に、金持ちたちの見せ物でもあるんだ。そして、ストレスを与えて能力を覚醒させるためにある。だからここから出た人は100%頭がおかしくなる。でも外に出たらすぐ監獄であったことはすべて記憶から消える。
でも強制監獄という言葉を聞くと記憶の消去は解除されるの。
これだけならとても甘い。これだけなら、誰でも頑張れば耐えることができる。でも、じ、じつは……」
と、その時だった。カミーラは口に手をおさえたが、嘔吐を抑えられなかった。
「オオェェ」
(そ、そんなに胸糞悪いことなのか?!)
タハトはカミーラの背中をさすってやった。
「きょ、強制監獄の……中ではみんな永遠に、はぁ、生きることができてしまう。ゴールに近づけば近づくほど……あっさり死んでしまうようなトラップも現れるの」
頭から冷や汗が垂れ込む。
「そ、それって何回も、何回も、死ぬ恐怖を味わえってことか?」
次回 明後日 投稿。
To be continued..