千二百文字小説(10/16)
チクタク。時計は今日も秒針を進める。僕を追い詰めていくように。
僕以外の人間は僕を越して進んでいく。僕の友達には大きな夢があって、その目標を目指してただひたすらに進んでいる。その時間は人生の有意義で、何よりもの価値があるんだ。僕にはその価値がない。
勉強、経験値、人間関係、実績、全てにおいておいて行かれている。
「スタートは……同じだったのに……!」
どうしてこんなにも差が出る?どうして僕だけができない?モラトリアムが過ぎた時、僕が本当の自立をしなくちゃいけない時、生きていけるのか?
僕のずっと先の前には、憧れの女の子がいる。彼女は高校一年生という若さで、学校一秀でている。そんな彼女は大きくて無機質なコンクリートの壁のようで、もちろん超えることが出来ない。越えようと考えたことすらない……。絶対的な圧迫感と絶望がそこにはある。
しかも、彼女以外でさえ65点をとることができる。僕に到底及ばない。いつも赤点の僕には……。
彼女は言った。
「私は毎朝5時に起きてジョギングに行き、帰って健康的な食事をとり、勉強に心血を注ぎ、ひたすらに知識を高め、残りの膨大な時間で自分の趣味に没頭し、ただひたすらにLvを上げていく。たくさんの人にも声をかけられたわ」
「僕は選ばれなかった人間なんだ」そう突きつけられたようだった。
無意味だ。僕の使ってきた人生全てが僕に悪い影響しか、与えていない。こんな無慈悲なことがあっていいのかよ。
「こんな無慈悲な人生を、もし、私があなたに起こさせているなら」
嘲笑った。何言っているんだと。
「簡単な話よ。こんなにも私のような完璧な人間が本当に存在すると思う?そんな完璧な人間が、あなたのような凡人と長々と会話したいと思う?私には、人の価値を奪う力がある。だとしたら、ね」
嘘だろ。そんなことあるわけ……。いや、確かに特別な違和感はあった。彼女があまりにも大きい存在であったせいで、凡人たちまで美化され、大きな壁だと錯覚させられていた。しかも、僕の学力はあまりにも低い。まさか本当に……!
「嘘よ」
「え」
「そんな力ある訳ないでしょ」
「は!?じゃあお前はどうしてそんなにも完璧なんだよ!」
「私はあなたは私にこんなふうに見ているんじゃない?揺るぎない自信と熱意のある環境があるって。はっきり言って、どちらも無いわ」
「え、今なんて」
「どちらもないわ。私に自信も特別な環境もない」
「じゃあなんでだよ!」
「ただ馬鹿みたいに走ってただけよ。どんなに否定的で、筋の通った意見があっても無視して進んでいた。私はただ私を信じてたの」
「そんな……じゃ、じゃあどうして僕なんかに時間を使うのさ!」
「もったいないと思ったんだよ。君は自分には価値が無いと思っているみたいだけど、私はそう思わない。むしろ、そこらの人間より立派。大丈夫。自分を信じてあげな。モラトリアムみたいなクソ時間制限なんてないんだから」
タイトル『無価値なんてない』
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