千二百文字小説(10/25)
ーーだから大丈夫だよ。と昨日母を亡くしたばかりの彼を慰めてやった。
「簡単に…大丈夫だなんて、そんなこと言わないでよ!君にはわからない!」
彼はいきなり大きな声を出した。でも私は驚いたりしない。なぜなら私は彼を恐れたりしないのだから。
君は私にわからないという。でも私だって悲しかった。彼と毎日のように遊んでいたから、彼のお母さんとは小さい頃からの知り合いだし、本当によくしてきてもらっていたから。
だけどいいんだよ。あなたがそうやってうずくまっている間、私はあなたにあなたに思うぞんぶん寄り添える。
* * * * * * * * * * * * * * * * *
「わかるよ。実はね、私も孤独だったんだ。お母さんも、お父さんもいないの。誰かに殺されちゃったんだって」
そう、あれは私がまだ小学生の時だった。
「!っ……」
彼はちょっとびっくりして私を見たけど、すぐに視線を逸らして、俯いた。
「だからね、今の君の本当に辛い気持ちはよくわかるの。でもね私は不幸自慢したいわけじゃないからね。私が君よりも早く一人になったけど、今日まで君が一緒だった」
「……どうしてそこまでするんだ」
「君が私を見つけてくれたから。この公園でね」
そう、あれは私がまだ小学生の時だった。
冷たい雨が首筋に通って、体が凍りつきそうになったあの夜。私は一人この公園にいた。私は一人になった時、退屈になった時にいろんなことを考えるのが好きだった。隣の席に座っている子がいきなり先生に怒鳴りに行き、授業も忘れてしまうことを妄想したり、地球にいきなり宇宙人がやってきてたくさんの人を食べてしまうことを考えたり。
他には、そうだな、あの子とあの子が喧嘩して別れたら、私を見てくれるのにな。
私が彼のお母さんを殺したら、私が彼を慰めに行けるのにな。なんて、くだらないことを考えてたりした。
あれ、あはは。
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「どうしたの?これから行くところがあるんだけど」
彼はいつものように私をあしらおうとする。
「ううん、いいの。ごめんね、引き留めちゃって」
ただの妄想。私の願い。彼のために何かしてあげたいなんてただのエゴ。
こんなエゴの優しさはいけないと思いつつも、こんなことを考えることができてしまっている時点で私の優しさは眉唾なのかもしれない。
彼のお母さんは亡くなっていないし、私は彼の救世主でもない。ただ、数秒間だけ彼と一緒にいる間の話を妄想しただけ。何にも行動できないくせに、頭で考えることだけはたくさんある。ああ、変わりたいな。この弱い心はどうしたら強くなるんだろう。筋トレで自信をつけてみる?いいかもね。
このスースーするこの穴を埋めるために、誰かとお話がしたいけど私にそんな勇気はない。
寂しいな。今も私のパパとママが今も生きていれば、こんなことしなくて済んだのに。
タイトル『実現』
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