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千二百文字小説(10/5)
朝起きたら、足が痛かった。
なぜ足が痛いのか調べるために私は病院へと向かう。
バスはいつも乗るが、いまだに心の浮遊感は消えない。
バスを降りて、痛い右足をひきづりながら歩く。その時だった。
大きな影が私を一口で飲み込んだ。
なぜか今日は空を見上げた。下を向いている日々では、なんて大きな雲だろうと思っていたのだが、見上げてみればそこには何もない。青い空が永遠に広がっているだけだ。
この芳しい匂い、どこかで覚えている。
* * * * * *
「あ、あれ……なにこの記憶は」
病院の受付で予約をした後、緑の革のソファに座る。
そしてホッと落ち着くと、記憶をさらに呼び起こす。が、その時だった。
つんざくひどい音が耳の中をつつく。
「ーーーーさん?!!」
患者の一人が、派手に倒れたみたいだ。すると、一人のお婆さんが視界の中に入ってきた。あらい息が聞こえたそのせつな、彼女の体が歪む。
私は倒れる彼女を身を挺して抱き抱えた。体の右側にとてつもない負担がかかる。人工呼吸器と、車椅子が一緒に倒れ掛かってきている。
「あ、ごめんなさい。つい、よそ見しちゃってました」
男の看護師が車椅子を放り投げて、ポカンとしていた。
* * * * * *
悪夢を見たんだ。
私の足はまさかの負荷に押しつぶされてた。どれだけあの後逃げようとしても、私の足が邪魔をして逃げられない。必死にもがき這いあがろうとしても無駄だった。その、彼は、私の彼氏で、たまたま時間帯が勤務中だった。芳しいあの匂い、間違いなくあれは彼の香水だった。
ああ、えっと、もうわからないんだ。何が現実で何が夢の中なのか。でも私は夢を見ていたい。そう望んでるの。
私の愛は偽物、なのに彼は私を本気で愛している。でも、どこかで私は彼に無関心でいてほしいと願っていて夢見ているのかもしれない。いや、それもわからない。
わ私、本当は怖いの!彼に嫌われることも、無関心でいられることも!彼の匂いだって嗅ぎ続けていたい!でもでも、何が言いたいのかわからないよね。私もわからないや。夜だからかな、頭がネガティブだよ。
* * * * * *
「悩みは言葉にできない」
心の支えでもあった人が、嘘つきで、私に向けられた眼差しに返した私の愛もいいように扱うのなら私はどうしたらいいの?
朝起きたら足が痛かった。ひたすら憂鬱だ。
怖い夢を見て朝起きるし、足は痛いし、変な想像しちゃうし、行き場のない「どうしようもないって」という怒りだけが残るし、この気持ちは一体なんなの?
毎日おかしなことが起きたらいいな。じゃあいつもと違うことをしてみよう。いつもは見上げない空を見上げるとかさ。もしかしたら、いきなり運命に記されていないイレギュラーな行動をとった私に神様はびっくりしておかしなものを見つけられるかもよ。
人と関わると疲れる。でも関わりたい。人っておかしくて、どうしようもなく仕方のない生き物だね。
タイトル『だから私は小説を書き始めようと思った』