【連載小説】『パタイトのテル』2s4w「優しさ」
日は沈み、空は赤紫色に染まった。
「マイク……なにをしてるの……?」
「……」
マイクの手の中にはナイフが握られていて、そのナイフの先にいるのは、赤いもの。なぜかタハトには見覚えがある。赤色の液体がそこらを浸していた。
「ちが……う」
小さく細い声がした。
「……」
その時、恐ろしく、輝いたマイクの瞳がタハトを向いた。
「違う違う。俺はやってない……!」
「いったい何があったんだ!マイク!」
タハトは取り乱しながらも、強く聞いた。
「……き、気付いたらここにいて、そしたらナイフもってて」
マイクは体をガタガタと振るわせ、薄く笑っていた。
「わかった、わかったから落ち着いて、信じるから」
タハトは優しく声をかけた。
力が抜けたのか、ナイフは手から滑り落ち、地面に落ちた。
「一体なにがあったの?」
タハトは落ち着いた声で聞いた。
「俺もみんなを探してたんだ。そしたら血だまりができてて、カミーラと一緒にいた女の子の死体が倒れてた。しかもナイフまで置いてあったから、確認したんだ。みんなナイフは一人一本ずつもらうだろ?食料調達とか食事のために」
「うん……」
「このナイフも誰かのだから名前が書いてあると思ったんだ、そ、そしたらさあ。あれぇ?お、俺の名前……が、書かれてんだよぉお!俺が殺したんだ!絶対そうに違いない!」
マイクは大粒の涙を流しながら言った。
「大丈夫だよ、マイクはそんなこと絶対にしない僕は知ってるから」
「え?」
ああ、きっと、マイクはみんなのことを誰よりも思っているからこそ、愛する家族を傷つけてしまった自分の置かれている立場が怖くて、怖くて仕方がないのだ。
タハトは言った。一緒に遊んだのはたった数日だけだが、タハトも思うことがあるのだ。
「マイクとカミーラはほんとに姉常思いなんだよ」
「だからそんなとこ」
「あるよ。確かに姉思いすぎて言いたいことを伝えられてないけど、マイクはあの時、カミーラと同じことを言おうとしたんじゃない?水辺の遊び場は楽しいから、カミーラのためにとっておいたんだよね」
「……買い被りすぎだし、うっせぇよ、そんなことしてねぇし!あんな奴のためにさ!」
マイクは少し照れている。そして、ぐちゃぐちゃになっている顔を手で拭った。
「おら!みんな探しに行くぞ!ついでに姉貴に謝りにもな」
と、一言前までとは断然小さな声で言った。
タハトはとてもにやにやしている。
子供の死体は、テントから毛布と氷を持ってきて、丁寧に毛布で包み、腐らないように氷で冷やしておいた。
「っさ、みんなどこだろうね。僕は広場探してみたけどいない」
「俺は結構いろんなところ探し回った。残り探してないのは森への一つしかない入り口だけだ……でも、あそこ立ち入り禁止なんだよなーあとすんげーおっかない」
「よし!行こう!」
タハトは元気よく言った。
「判断早いなーおい!」
そうして二人は入り口へ向かった。
到着してみると、そこは、トンネルになっていて、何とも言えない威圧感がある。
「ついたなーよーし。いくぞ!いっくぞーいくぞー」
マイクの足はひどく震えている。
「もしかして、マイクって暗いとこ苦手?」
「はぁぁあ?!」
マイクの声はかすれていて、うん確かに怖がっている。
するとその時だった。後ろから
「ねぇ」
「で、でたぁあァ!」
マイクは一気に3メートルくらいジャンプした。
「び、びっくりさせるなよ……やっと、一人見つけたな」
「うん!」
タハトは嬉しそうに言った。
そして、あれから、薄暗いトンネルを10分ぐらい歩いた頃、タハトは痺れを切らして、彼女に話しかけた。
「どこかで話をしたと思うんだけど、思い出せなくて、ごめん、名前はなんていうの?」
「おおい。おいおい!こいつに名前を聞いたら……」
と、マイクが変な動揺を見せた。
「アイノウだよ」
「う~ん、やっぱりどっかで……」
「なんで普通に!こいつの名前を聞いたり、能力を聞くと、恥ずかしいことや隠していることをすべて暴露されるんだよ!はぁおっかねぇ」
「へーそうなのぉー?!こ、こわいね」
「なんか隠してる反応だな!おい!何を隠してるんだよ!」
「ないけどね」
「それはそうと。アイノウ、みんなどこに行ったか知ってる?」
「知ってる。黒い服の人たちが、みんなをさらってこのトンネルに入っていった」
「ええぇ!アイノウは大丈夫だったの?」
(黒い服の人……なんか嫌い……急に嫌ってしまって申し訳ないけど)
「私はそんなへまはしない。トンネルはいつもは締まっているのだけど、今回は特別みたいね」
アイノウはひそひそした声で言った。
「やっぱり、今みんなも知らない異変が確かに起きているんだね……にしても暗くなってきたね」
トンネルはもう真っ暗である。
と、その時。ボッゥ!っという音がすると、マイクの手から火が出ていた。周りは、一気に明るくなって、足元が鮮明に見えるようになった。
「え、え!燃えてるよ!」
「これは特殊能力だよ兄ちゃん」
「ほえぇ、すごいねやっぱり。ってもしかして、能力使えないのってこの平原で僕だけ?って、なんで僕ここにいるの?」
「まぁまぁそう落ち込むなって、兄ちゃんは能力じゃなくてもいいもの持ってるだろ」
「ま、マイクぅ……」
タハトはキラキラした顔でマイクを見た。
「へ、変な顔で見るなよ……」
マイクは照れくさそうに言った。とそうこうしていると。
「ついたよ」
長い道を通ると広い大広間に出た。
「誰かいないのか!」
すると、その時だった。大広間の真ん中ぐらいにつくと急にマイクの炎の明かりが点滅し始める。
そしてついには大広間は真っ暗になった……。マイクが再び炎を出して明かりをともすと、他でもない、正面の出口にカミーラの姿が現れた。何か様子がおかしいようだ。首をぐるぐると回している。とても不気味な挙動だ。
「あ、姉貴?」
一体、どうしてしまったのだろうか。
次回 明後日 投稿。
To be continued..