千二百文字小説(10/10)
僕は世界で一番孤独な男です。
自慢や自負じゃない。本当のことです。朝起きたら誰もいないし、一歩外に出てみても会話する相手がいません。何か、インターネットのコミュニティーに参加してみても、軽蔑されている実感があり、僕だけが浮いてしまいます。
幸せそうに笑い合う人々や、物を見るだけでも自分がなんて乏しい男なのだろうと、自分の心を抱き凍えました。
いっそ全てが真っ白で、誰もいない僕だけの世界であれば、少しは楽になれるかもしれないと思うほどです。
そんなある日、自分の姿がスーパーのガラスごしに映ったその時でした。
次の瞬きの間に何かが起こったのでしょう。
周りの景色はぼやけていて、一歩踏み出すたびに、足元はまるで雲の上を歩いているようでした。どこまでも続く白い空間には、音も色もなく、ただ僕だけが世界と切り離されているようでした。
その後僕は嬉しさのあまりしばらく走り回りました。
すると、今更何事にも驚きはしません、目前に地面に光る球が落ちているのを見つけました。僕はそれに近づき、球のぞいてみました。
するとそこには驚くべきものが映っていたのです。
* * * * * *
「早く行くぞー!」
無邪気で明るい声が光の向こうから聞こえる。
「わかってるって!待ってろよー!」
友人は鈴の音が鳴るお守りを揺らし、崖を登り遠ざかる。
「ほらほら早く!ほら見てみろよ!絶景だ!」
「うそだろ!やばいやばい!すぐ行くから!」
「……」
「なあ!なあー!」
「……」
僕はやっとの思いで崖を上り切った。そこの景色は彼の言った通り絶景で、とても綺麗だった。
「おい、どこいったんだー?」
しかし、友人の姿はどこにもないのだ。まるで風に消え去ったかのように、彼の気配さえ感じられない。
何度呼んでも返事はなかった。急に胸が締めつけられ、僕はその場に立ち尽くした。何かが、僕の中で音を立てて崩れていくのがわかった。
* * * * * *
僕はそれからずっと一人でした。他人を信じることができなくなっていたのかもしれません。また裏切られるのが怖かったのかもしれません。
あの頃は良かった。ああ、なぜ僕は、また友達を作ろうとしなかったのでしょう。恐怖に打ち勝ち、自信を持って人に話しかけ、素直になれれば良かったのに。
しかしもう手遅れのようでした。死後の世界、そんな言葉が頭に浮かびました。ただ、静けさだけが僕を包み込んでいくようでした。
僕の人生は、誰の記憶にこることもなく、ついえてしまうのです。
ただ、生まれ変わりが存在するのなら、次はたくさんの人に囲まれて死にたい。
その時でした。手に抱えていた光の球がさらに強く輝き始めました。
光の球が僕を包み込むと、鈴の音がどこかから聞こえてきて、懐かしいその音に、僕は涙を拭います。やがて、光の中からぼんやりとした影が現れるます。
「お前、遅いよ」
懐かしい声が、耳元で囁いたのでした。
タイトル『世界で一番孤独な男』
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