千二百文字小説(10/13)
指名手配中の魔法少女が、学校の更衣室におる。
「私は最後ちょっと練習してから帰るわ!またねー!」
「がんばるねー、ほどほどにしなよ、そうだ、最近指名手配されてる魔法少女がここらを彷徨いてるらしいから気をつけなよ!んじゃバイバーイ!」
私は友人を見送ると、プールに入るために更衣室にやってきたのだが、なんかピンクに包まれた見覚えのない女の子がおる。そして、彼女は神々しく光ると、私と同じぐらいの普通の女子高校生に戻った。
「あ……」
「え……」
少女は何やらぶつぶつ言った後に、気だるげに手首を差し出してきて、「もう、疲れた。ほら捕まえて警察にでも連れて行けば」と言った。でも、私はどうしても彼女を捕まえる気になれなかった。私は即答で「嫌だ」と答えた。すると、彼女は目を丸くして「どうして」と聞いてきた。私は、どうでもいいから。と平然に答えた。なぜなら私にとっては、彼女が何をしたのか知らないし、もし知ってたとしても、今の私になんの影響も与えていないのだから、捕まえる理由がないのである。彼女は私に「変わってる」と言った。
私は聞いた。「どうして指名手配なんかされてるのさ」と。すると、「たくさんの人を誘拐してる」と彼女は言った。なるほどな、確かになかなか酷い事をするなと思った。しかし、まだ彼女の理由を聞いていない。決めつけるのはまだ早いと言える。
「……君まで巻き込みたくはない。だから言わない」と言われてしまった。彼女は腐ってもヒーローだった。私を大きな闇の渦へ巻き込まないように秘密を貫こうとしている。でも、それは間違っているわ。「もうあなたはヒーローじゃない。そうでしょ?ただの犯罪者」私はそう言い返した。彼女が本当に指名手配されるような悪党なら、なぜ私を庇う必要がある?
彼女はしばらく沈黙した後、やっと口を開いた。話を聞く通りには、彼女に課せられた罪は冤罪で、裏で世界を操っている脅威と一人で対峙しているようだ。その際に裏の人間に騙され、悪党に仕立て上げられたというわけらしい。
しかし、彼女は弱気なことをなん度も繰り返し言った。「疲れた」だの「たくさんの仲間を失った」だの「このままどれだけ頑張ったとしても、どうせどこかで死ぬ」だの「能力だって次第に薄れてきてる」だの最後には「こんなにも頑張っているのに、一向に見返りがこない。神様はもうとっくに私を見放したのかも」とか言っていた。完全に自信と生きる力を失っているように見えた。
「じゃあ私がやる。私が魔法少女になる」私はそう言った。すると彼女は腹を抱え盛大に笑い始めた。だが負けじと私は続けて言った。確かに失うのは怖い、戦い続けてたらいずれ逃げたくなるのもわかる。強大な脅威と対峙して完全に自信をなくす気持ちもわかる。でも、そんな積み上げてきたものを諦めてしまっていいのか。せっかく蒔いたタネに水をやったのなら、どれだけ時間がかかっても花にしたいじゃない。
タイトル『ネガティブフラワー』
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?