ガテン系の彼に、恋をしました
お昼休みに同僚とランチに行くために会社のビルを出てお店まで歩く。
あ、今日もいる。
会社から少し歩いたところにビルを建てるらしくて、工事をしている。
その工事現場にいるたくさんの職人さんが目に入った。
……かっこいい
みんな楽しそうに笑いながらお昼ご飯を食べている。
その中の人に私は恋をしてしまった。
数ヶ月前のこと。
先輩に頼まれて夜遅くまで残業をすることになった人たちの夕飯を買いに会社を出てコンビニへ向かっていた私。
先輩からのLINEを見ながら何を買うか確認していると、
「そこ、危ないよ」
そんな声が聞こえて立ち止まって顔を上げた。
すると、目の前には長い鉄パイプがいくつも積み上げられていて、気づかずにそのまま歩いていたらぶつかってた。
危ない危ない。
声掛けてもらわなかったら絶対怪我してたよね。
お礼を言おうと声がしたほうへと顔を向けた。
その先にはヘルメットにサングラス?らしきものをかけてこちらを見ている人が。
ニッカポッカを履いているからどう見ても工事現場にいる職人さん。
なんか怖い…
怒られちゃうよね。
でもそれは違った。
『すみません、ありがとうございました』
そう言うと職人さんは、
「ちゃんと前向いて歩かなきゃダメだよ(笑)」
と笑いながらサングラスを外した。
え、可愛い…
その風貌とは真反対なふにゃっとしたその笑顔。
パッと見怖いと思ったのに。
しかもかっこいい…
その瞬間、私は恋に落ちてしまった。
『本当にありがとうございました!』
恥ずかしくなって走るようにその場を後にした。
買い出しを終えて会社に戻った時に後悔した。
『……名前、聞けばよかった』
それからは工事現場の前を通る度に彼の姿を探してしまう。
彼を見つけるとその日がとても幸せな気分になる。
ランチに行く時に私があまりにも工事現場の方を見るので同僚が、
「毎回工事現場見るけど何?」
『え、あ、…うん』
「何?気になるんだけど(笑)」
『あのね、あの中に好きな人がいて』
事情を話すと、
「え、マジで?ガテン系だよ?私無理だわ」
と言われた。
「ああいう人たちって怖そうじゃん」
『……そうかもしんないけど』
「やめときなよ、〇〇ちゃんには合わないって」
『……うん』
そう言われて何も言えなくなってしまった。
はぁ……だけど、もう好きになっちゃったんだもん。
名前も、どんな人なのかも知らないのに。
でもきっと優しい人なんだよ。
じゃなきゃ、あんな笑顔しないよ。
同僚に言われてからは工事現場の前を通る時、同僚に気づかれないようにちらっと見るだけにした。
……このままこの工事が終わってしまったら会えなくなってしまうのかな。
そう思ったら悲しくなった。
「ごめん、残業になりそうなんだけどまた買い出し頼める?」
先輩に頼まれてコンビニに行くことに。
11月も半ばを過ぎ、日が暮れるのが早くなって急に寒くなった。
上着を羽織って会社を出た。
彼がいる工事現場の前を通り過ぎた。
「今日はちゃんと前向いて歩いてるね(笑)」
そんな声がして振り向いた。
あ、……彼だ。
「あ、…すみません」
私がびっくりして何も言わなかったからだろう。
『あ、いえ。あの時は本当にありがとうございました!』
「よかった。忘れられてたかと(笑)急に声掛けちゃったからやばいやつって思われたかと思った(笑)」
彼が覚えていてくれたことに驚いている。
『覚えててくれてると思ってなかったんで…』
「もちろん、覚えてるよ。だって……」
待ち合わせ時間に遅れそうになって走って向かう。
待ち合わせ場所にはもう彼がいた。
『はぁ…はぁ…遅れてごめんね?』
「そんなに走ってこなくてもいいのに(笑)」
『だって、隆二くんを待たせたくなかったんだもん』
隆二くん、かっこいいから他の女の子に声かけられたら嫌だもん。
「あの…」
ほら、また。
「〇〇ちゃん?」
え、隆二くんじゃなくて?
名前を呼ばれて振り向くとそこには同僚が。
『あ、』
「もしかして彼氏?」
『あ、うん』
「かっこいいじゃん」
んふふ♡
「〇〇ちゃんにはガテン系の人より似合ってるよ」
そう言った同僚の耳元でコソッと、
『彼、あの工事現場にいた私の好きな人だよ』
囁くとびっくりして固まった。
固まったままの同僚に手を振った。
『行こうか?』
と隆二くんに言うと、
「え、友だち固まってるけどいいの?」
『うん、いいのいいの(笑)』
「何話してたの?」
『ん?隆二くんと私がお似合いだねって』
と言うと
「そっかぁ(笑)」
と隆二くんがあの笑顔を見せた。
『隆二くん、あのね?』
「ん?なに?」
『大好き♡』
「ふふ、俺も(笑)」
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