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five realities 〜統合〜 (7)

孤独と寄り添えるようになったら
可笑しくなくても
笑うことを心掛けた

私ってこんなにコロコロ
声を上げて笑うんだ

そう気づいた時には
見るもの
感じるもの
全てが楽しくなっていた

誰にも染まらない
誰も関与させない

いつからだろう
黒色の服を好んで着ていた
下着までが黒

黒以外は似合わない
そう思い込んでいた


ピンク
黄色
グリーン

クローゼットの中が
色とりどりに華やいでいく

我慢をやめ
犠牲をやめた

望むこと
欲しているものを
与えられる限り
与えるように努める

そんな習慣が身に着くには
それ程時間はかからなかった

そして
自分の人生を歩んでいくこと

正式に離婚することを決めた

気持ちが落ち着いたら帰ってくるだろう
そんな思いで私を待っていていた夫は

久しぶりに会った私が
変わっていく事に狼狽えていた

顔色をうかがい
お愛想を表情に浮かべる

それでも
離婚を切り出した

激昂した夫は
何が不満なのか
今まで築いてきたものを壊すのか

色々な言葉を並べられたが
響かない

唯一
気掛かりだったのは姑のこと

三年前に老人ホームに入居するまで
姑が快適に過ごせる様に努めるのが私の役目

家を出てからも変わらず
ホームへの面会だけは欠かさなかった

姑はとても強い人で
そんな人がゆっくりと
穏やかになっていく

夫と一緒に面会に行ったとき
夫を施設の職員と思い込み
私をうちの嫁さんと紹介した

私のことだけは忘れない
それだけで嬉しい

家を出て七ヶ月

もう駄目だと思う
夫からの連絡
 
部屋には夫と
姑の実弟夫婦が待っていた

ベッドの上には
目を閉じ切れず 
大きく呼吸をする姑

一週間前にホームに呼ばれ
医師から
 そろそろ覚悟をしてください
そう言われていたが

その時でも
まだ私のことだけは分かってくれていた
車いすに座る姑は
テレビのリモコンが壊れちゃったの
力なくボタンが押せない

 一緒に帰ろう
ニッコリと笑い私の手を握る

目の前にいる姑に
声が掛けられない

定期的に医師がきて
淡々と状況を説明する

ゆっくりと最期の時を待つ
今では握り返す力もない手を握り
 ばぁば 
もういいよ
 お疲れさま
私の声が聞こえているね

私を待っていてくれたんだ

私の掛け声に
姑は大きく息を吸い込み
ゆっくりと呼吸を止めた

医師の死亡宣告を聞き
姑の手を離した私の掌には
キラキラと金粉が湧き出ていた

葬儀 
四十九日 
納骨まで業者との打ち合わせをすませ
骨になった姑に別れを告げる

この世で何よりも大切だった家族に
四十九日法要には参列しない事を告げ
その場をあとにした

都心から三時間半

夫のご先祖様の元に挨拶に来た
大きな雲が青い空に浮かんでいる

長い間お世話になりました

これでお暇をいただきたいと思います
ご許可をお願いします

そして
お義母さんをよろしくお願いします

本家の墓で手を合わせる

今までの日々を思い返していると
菩提樹に孵化したばかりの蝉が
徐々に羽を伸ばしながら
ゆっくりと登っていた

姑の四十九日も終わり
離婚の話し合いをしたいと
夫に切り出した

夕刻のファミレス
夫は怒りをあらわにし
声を荒げた

男のプライド

しばらくすると
弁護士から連絡
私が夫から三下り半を
突き付けられる形となった

離婚の理由を
文書にしてくれとの指示
結婚生活三十二年
交際期間を合わせると三十四年間

親よりも長く共に生きてきた人

パソコンに向かうこと二時間
三五枚に及ぶ述上書が書きあがった

夫との日々
子供たちとの日々
義息子を招き
生まれた孫たちとの日々

たくさんの日々が思い返される

感謝の日々
私は恵まれてきた

ただ私は知ってしまった
人間の本来の生き方を

夫は受け取った述上書を見て
私の覚悟が分かったのだろう

離婚に応じる意思を見せてくれた

結婚記念日の前日

三十三年間に一日もかけることなく

三十三年間を一日もこえることなく

都心の上空をブルーインパルスが飛んだ日

夫と三十五年の学びを終結させた

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