five realities 〜統合〜 (8)
2020年
全世界を新型コロナウイルスが襲う
テレビも新聞も見ない
そんな私でも世の中が混沌とした時を
迎えていることはわかった
ただ人より不安や恐怖からは遠い所で
生きていたように感じる
全てがクローズした世界
私がやるべき事も滞り
再会する目途が立たない
もう地元に留まる必要はなくなった
予定より一年早いけど
彼の住む町に行こう
初めて出逢ってから
三年の月日が経っていた
その間
一度も会う事はなかった
ただ何時でも心に彼がいる
何をしていても彼を感じる
不思議だけど
忘れることがないのだ
いま何をしているのだろう
そんな思いではない
何時も一緒にいて
何時も感情を共有している
そんな感覚を抱いていた
新たなことに挑戦する時も
ひとりじゃない
そう思えたから失敗を恐れず
挑んでこられた
彼の私への気持ちを確認した訳ではない
それでも
私の笑顔が
彼の幸せ
本当の気持ちを呼び覚まし
本当の自分を追いかける
日常生活の中で
手あたり次第幸せをみつける
それが目標になっていた
自分が感じたまま進んでいく
じゃあ
孤立無援のこの地で
どうやって生きていく
私に出来ること
何処かで雇われて働こうという
気持ちはなかった
長年貯えてきたお金で
しばらくはのんびり過ごそう
そんな気持ちもない
家族と一緒に来ていた頃に
目についた
国道沿いの一軒の店
三年の月日が過ぎていたが
空き店舗として待っていた
ここで食堂をやろう
その頃の私は
まったく根拠のない
自信に満ち溢れていた
店舗を見に行った時に
知り合ったご婦人に紹介された
建築会社の間社長
社長の紹介で
下請け業者が工事を請け負った
コロナの影響で建築資材が輸入できず
工事がストップする事態になったが
閉店をする飲食店も多く
中古の機材が巷には溢れていた
軌道修正をしながらも
着々とオープンに向け進んでいく
都内で生まれ育った私は
運転免許を持っていなかった
電車やバスの交通機関も
充実していない町
ましてコロナ禍で本数の減少
この町で暮らしていくには
車の運転は不可欠
若者たちに混じり
合宿免許に挑んだ
十四日間の合宿
八時から十九時まで
学科と実習
合間に一万問の問題をたたき込む
教習所は山の山頂を切り開いた場所にあり
路上運転に出るには必ず
山道を走らなくてはならない
狭い道
急こう配
臆病者な私は遊園地のゴーカートすら
ハンドルを握ったことがなかった
オープンの日が決まっている
ケツが決まっているんだろ
頑張れ
教官たちの叱咤激励
こんなに追い込まれて勉強したのは
人生で初めての事だった
どんどん気分が滅入っていく
なんでこんな事を選んじゃったんだろう
逃げ出したい衝動に駆られる
小雨の降る日
いつもより教習時間に合間が出来た
教習ルートを歩いていく
たくさんの車が行き交う
あんなに狭いと感じていた車道を
バスやトラックがすれ違う
こう配も歩いてみたら
そんなに急ではない
まだやれそう
物の見方と感じ方
それだけで心情が変わることを学んだ
中腹にある神社の境内をゆっくりと歩き
無事に卒業できますようにと手を合わせた