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早く大人になりたかった山田三郎へ

三郎。大人になりたいんなら、なってみるのも一つの手だよ。

大人になりたがるのをやめたとて、君は「子供」に戻れるわけではない。
君は聡すぎるし、きっと、背伸びをやめたって普通の子供なんかには戻れない。

周りの大人は言うでしょう、変に気張るのをやめて「等身大の中学生」でいてもいいって。
でも等身大の中学生なんかでいられないってわかってるだろ。
君は、そして私は、私たちは、等身大の中学生なんかで収まる器じゃないでしょ。
仮に、君が等身大の君になったとして、そこには肥大していく選民思想と孤独感しかない。

魔法なんて使わなくていいと君が思ったとしてもね、君の実力はどう見たって「魔法」なんだって君は認めなくちゃいけない。
魔法なんていう枠に君の実力を収めちゃいけない。
魔法だなんだと言わせておけばいい。
ただ、君は君の力を魔法と見限っちゃいけない。
いつか君の魔法は君の実力でしかないと君自身が気がつく時がきたとき、君が君自身のことを根拠のない魔法使いだと儚んでいたことの代償は大きいよ。

魔法だってなんだって使って、結局それは君自身の真っ当な力なんだからさ、ひとっ飛びに大人になっちゃえ。
子供の領域ではあまりに聡かった君でも、流石に大人の経験には敵わなくて……そこでようやく、君は同世代が経験するような無力感とかを感じることができるんだよ。
大人びてきた子供時代を、大人時代の幼さで取り返そうよ。

三郎にとってはさ、バトルのステージはそれなのかもしれないね。
負けたくない、負けたくないって奮闘できること自体がなかなか私たちには訪れないことだもの、それはきっと側から見たら今まで通りのイージーなことではないから、心無く「大変そう」だなんて言ってくる奴らもいることだろうけどさ。
君にとっては今までのイージーさこそが苦痛で、今の切磋琢磨は、何よりもの生の実感だって、私はわかるよ。

ただ、どんなときでも、君が等身大の中学生をやりたくなったらやってもいいし、そこに矛盾を感じて自分を律したりなんてしなくていい。あくまで、君は子供だから。

私の全ての憂いを、山田家の人間は軽々と飛び越えたり、飛び越えようとしてしまうから、少し寂しくなる時はあるけど、私はこの文が君の孤独を癒すようにと思う反面、こんなもので癒す隙間もないほど君が満たされていればいいと思う。

こちら側へ落ちてくるのは、君のお兄さんだけで十分だから。
君のお兄さんは、君たちをそちらで生かすために、こちらに来るんだから。

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