ヒドイお眠り姫ちゃん ーー ショートショート
二人は外の冷たい冬から逃れ、彼の暖かいアパートでくつろいでいた。
ピザを頬張り、ワインを飲みながら語り合っていたが、一瞬のうちにピザの香りが空気中で消え去り、代わりにみかんの香りが柔らかくも力強い、酔わせるように彼の嗅覚を満たした。
時を遡り、数年前、彼女と一緒にいることがどれだけ心地良く温かいものかを初めて感じた瞬間へ。
彼女の家の窓から入ってくるひんやりとした風は、春が去っていくことをささやく告げる冬でした。
彼女はみかんを取って、一緒に食べる?って誘ったけど、彼はあんまりみかんを食べないと答え。
「味が好き!もちろん。でも、べたべただし、匂いが甘いんで、手にしみついてしまうんだ」と説明する。
「えぇ!」と、皮肉めいた彼女の反応。
「はいはい、こっち来て、私が剥いてあげるわ」。
「甘いなぁ」
「甘いん!「みかんは手が臭くなるからイヤだ」、はぁ?甘えん坊くん。」
二人が笑った。
彼は反論せず、彼女の頭を撫でる。
「これが利点だもん、頭ポンポンしてあげる、ほら、よしよし」
「はいはい、甘えん坊くん、口を開けて、あー」と言いながら、みかんの房を彼の口に入れた。
冬が近づいていたが、二人はお互いを温め合うことができるので、笑って楽しんでいた。
しかし、幾度も二人の人生に冬が訪れ、次第に二人とも冷たくなってきた。
それでも、何年もの時と多くの傷を経て、あの夜は彼女のいたずらっぽい目と、彼と一緒にいることに楽しさを感じさせる声を見つめながら、説明できない温もりを感じた。
最後だとするつもりだったのだから?
あの年月の中で、彼らはお互いから温もり以上のものをたくさん受け取ってきた。
二人がソファに座っていったとき、彼は普段より静かになっていた。
壁の時計の針の音が気に障っていて。
彼女は二人にもうワインの一杯注ぎ、瓶がもうすぐ終わりそうなのも彼を不快にさせる。
「・・・実は、告白したいことがあるんだ。」
彼女は笑った。
彼がそう言う時は必ず何か面白い話があると分かっている。
でもちょっと心配もした。
どうしてかというと、彼が何か気になることがあるときに不安を紛らわせるための方法だとも知っているから。
「昔のことですけど・・・」
彼女は手のひらに頭をのせ、彼を見つめながら、何かもっと深い意味が込められたような微笑みを浮かべ、足を彼の膝の上に寄せて、彼はそれが不公平だと感じた。
君はあと何年、こんな魅惑的な仕草で俺を苦しめ続けるつもりなんだ?
「あのクレーンゲームで君に取ってあげたクマのことを覚えてる?」
「一時間もかかって、どうしても取れなかったけど、私に試させてくれなかったよね。絶対、絶対取れるって。」
「それから、俺は大きいのをぜったい、ぜったい取るって約束しながら、君にアイスを取ってきてって頼んだんで・・・」
彼女はぼんやりと微笑む。
その時代は、あまりにも懐かしすぎて。
彼は続けた。
「でも実は、あの日、あるガキがゲーム機で調子に乗って、取れるだけのぬいぐるみを全部取っていったんだ。本当にムカついた!」
彼女は笑った、どう終わるか分かっていた。
「それで、俺がアイスを買ってきてって言った時、あのガキにお金を払って、君に必死に取ろうとしてたぬいぐるみを取らせたんだ。そしたら、こいつが二回目で取っちゃった!ずるいね、人生って。」
「えぇ!おいおい!でもあの子覚えてる!君がやっと取れたって自慢してる時、彼が怒った顔で見てたの覚えてる。何か裏があると思ったじゃん!」
「ごめん。」
彼女はそっと彼のところに近づいて、空になったワイングラスを脇に置き、彼の膝に頭をのせた。
「大丈夫、まだまだ愛してるよ。」と彼女呟いて、あくびをしながら、心地よさそうに唇を軽く舐める。
彼は彼女の髪を撫でて、また一瞬、みかんの香りが彼の肺に広がる。
二人はしばらく静かにそのままでいる。
すべての辛い出来事に疲れ、それでもそこから抜け出せないのは苦しく感じた。
お互いにあまりにも愛しすぎたからこそ、結果を考えず、あまりにも傷つけ合ってしまった。
彼女がそこにいて、そばにいることで安堵し、落ち着きを感じる一方で、なぜ心の中は葛藤しているの?
空っぽのワイングラスを見つめた。
一滴の深紅色の液体が、巧妙にガラスを滑り落ちている。
「正直言え、実は君がずっと俺のことを傷つけるのが好きだった?」
答えはこなかった、彼女は眠っていた。
当たり前だ、穏やかな呼吸の音を聞きながら、胸がそっと上下するのを感じていた。
膝の上で眠っている可愛い顔を見つめた。
こんなままでお眠る姫ちゃんのような寝顔を見たら、この世界に何の心配もないように見えるけど、それは大きな嘘だと彼が分かる。
彼女が膝の上で眠る姿をもう二度と見られないとなによりも怖かった。
「やられたな、ひどいお眠り姫ちゃん。」