ディグ・モードvol.89「ノン ラック(NONG RAK)」
ノン ラック(NONG RAK)は、2018年にバンコク出身のホーム(Home)とアリゾナ育ちのチェリー(Cherry)夫妻が設立した米国拠点のブランド。当初はヴィンテージショップと写真のプロジェクトだったが、2021年初めにハンドメイドのニットウェア ラインをローンチ。デッドストック生地やヴィンテージ糸を使用し、愛情を込めて持続可能なニットウェアを制作している。
タイの夜市で生涯のパートナーに出会う
タイ、バンコクで生まれたホームは幼いころサッカーが大好きで、高校時代は音楽の演奏が得意だった。一時フォトリアリズム アーティストになることを目指していたが諦めて、大学ではグラフィックデザインとイラストレーションを学んだ。
チェリーは米国アリゾナ州テンペで生まれ、思春期を孤独な一人っ子として過ごした。彼女の母はかつて写真家として活躍しており、夏の間は父と一緒にアリゾナで過ごしていた。当時、チェリーの彼はパンクロック ミュージシャンであったがシェフになりたいと思っていて、いつも彼女をアジアの食材を扱ったアジアン マーケットに連れて行ってくれた。
「懐かしい八角と魚醤の香りが何年も後にタイに来た理由だったのかもしれない」と彼女は当時を振り返る。
チェリーは幼いころから日本が大好きで、21歳でバックパック旅行をした後、イラストレーションでアーティスト・イン・レジデンス(アーティストが一定期間ある土地に滞在し、異なる環境で作品づくりやリサーチ活動をおこなうこと)をしていたときに旅行者ビザを取得し、バンコクでオペア(現地の家庭で住み込みで働くプログラム)のオファーを受けた。
バンコクで一人暮らしを始めてから1年が経ったころ、チェリーは街中でヴィンテージの洋服を探すことに夢中になっていた。毎週日曜の夜、彼女はホームが音楽ライブのために頻繁に訪れていた当時有名なナイトマーケットであるチャトチャック グリーン(Jatujak Green)に探しに行った。そしてある夜、彼はチェリーが歩いているのを見かけて声をかけ、彼らは出会った。
偶然の出会いは生涯にわたるパートナーシップへと発展し、1年後、ふたりは子どものキャスパー(Casper)を育て、ホームの写真への愛とチェリーのヴィンテージへの愛を追求するために一緒に米国に移住した。
クリエイティブなプロジェクトとしてスタート
2018年、ふたりは独自に厳選された小規模なヴィンテージ ショップと写真プロジェクトとしてノン ラック(タイ語で「若い愛」の意)を始め、彼らの服を着た友人たちの写真を撮影していた。当時、チェリーは英語教師をしており、キャスパーが生まれて、ホームは最低賃金の仕事をしていた。彼らはクリエイティブでいることが好きだったが、実際はその余裕がなかった。
彼らは当時そこまでファッションに夢中ではなく、趣味としてノンラックをやっていたが、ある時点でデザインやクラフトのニュアンスにインスピレーションを受けるようになった。アパートのすぐ近くにある小さなお店を借りる機会があり、そのタイミングで少量の在庫を持つために資金を投入し、次はどうやって商品を売るかを考え始めた。
その後、夫妻はタイからカリフォルニアに引っ越した。その数か月後、状況が良くなっているように見えたため、対面でショーを始めるために今度はニューヨークに移ろうとしたが、2020年に状況は大きく変わった。その年末にヴィンテージショップの経営は少し苦しくなり始め、継続できるかどうか分からなくなったのだ。
そこで、チェリーは編み物とかぎ針編みを学び始めた。その理由について、「ずっとヴィンテージをやり続けていて現在も辞めたわけではないけれど、編み物を学んで方向転換しなければ、何年も一生懸命取り組んできたすべてを失うだけだと感じました」と彼女は説明している。
デッドストック生地から新しい服を作る
彼らはヴィンテージを通して素材に触れ、学ぶことに多くの時間を費やしたが、最終的にニットウェアが好きなことに気づき、自分たちのブランドを立ち上げることについて考えるようになった。そして2021年初め、ハンドメイドのニットウェア ラインをローンチした。
ノン ラックは古いヴィンテージの糸からクリエイティブなニットを生み出しており、代表的なアイテムは、鮮やかな色のふわふわした手編みのモヘア キャップやトップスだ。ファースト コレクションがオンラインでデビューして以来、ブランドはカルト的な人気を集めており、2022年にはマーク ジェイコブス(Marc Jacobs)と彼のブランドHEAVENでコラボした。
ノン ラックでは動物実験なしの材料が調達され、長持ちするように染められた糸やデッドストックの生地を使い、愛情を込めてすべてハンドメイドしている。それらの素材は入手が困難ではあるが、ノンラックの作品を唯一無二にする欠かせないものだ。
「デッドストックのビンテージ糸から新しい衣服を作るのは、まるで過去に作られるはずだったものを完成させるような、ノスタルジックな一種の通過儀礼のように感じることがよくあります」と彼らはシンガポール版『VOGUE』で語っている。
リサイクル、再利用、修繕に重点を置く
通常ニットは寒さを連想させるが、彼らは温暖なアリゾナ州の自宅でニットを生産している。非実用性は彼らの作品にとって遊び心であり、さまざまな気候を念頭に置きながら実験をおこなう。また、夫妻はシルク、リネン、コットンなどのより着用しやすい軽量素材を扱うことも好んでいる。
彼らは暖かい気温に合わせてニットを再考し、ブランドの代表的なアイテムを洗練させたコレクションを作成した。また、海で見つかった廃棄物からインスピレーションを得た『Debris』コレクションは、アンティーク ビーズ、本物のパール、ダメージ加工したアルパカ糸などが使用されている点が特徴だ。
夫妻は新しいものを購入せず、持ち物をリサイクル、再利用、修理することに重点を置くことが効果的な方法だと認識している。生産量が限られているため、彼らは材料を再利用することを重視し、発送と梱包に取り組むためのクリエイティブな方法を見つけるつもりだと説明している。
唯一無二の雰囲気を持ち続けることが目標
ブランドの長期的な目標について、唯一無二の雰囲気を持ち続けることだとチェリーは説明し、天文学的な費用をかけずにそれを実現する方法を見つけたいと考えている。
ホームがノン ラックに望む方向性のひとつは、よりアートに近いものであることだ。「私たちの服を見せることはできますが、それはラックやボディの上にあるだけではなく、ときには壁に置くとオブジェになる可能性もあります」と彼は『1GRANARY』で語っている。
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